子どもの頃の気持ちや思い出をくすぐるような、なつかしくあたたかな物語をつむぐ種村有希子さん。最新作『あのこのたからもの』では、友だちと喧嘩してしまった主人公・はなちゃんが、お母さんのタンスの中で出会う不思議な女の子とのかかわりの中で、気持ちが変化する様子を丁寧に描きます。本作にこめられた、種村さんのお母さんや甥っ子さんとの思い出、子どもたちへの想いについて伺いました。
きっかけはお母さんのアルバム
ホームページにアップしていた、母の子どもの頃の写真や、エピソードをもとに描いた絵を見た編集者さんから「アルバムや、お母さんの宝物をゆずり受けることをモチーフに描いてみませんか?」と提案されたことがきっかけで、『あのこのたからもの』が生まれました。
母の赤い布ばりのアルバムを小さい頃によく眺めていて、初めて見たとき「お母さんも子どもだったんだ!」とびっくりしたんです。そのうち、想像がふくらんで「この子が今ここにいたら、友だちになりたいなぁ」と思うようになりました。『あのこのたからもの』のゆりこちゃん*は、母の性格とか雰囲気がモデルになっています。
*はなちゃんがお母さんのタンスの中で出会う女の子
『あのこのたからもの』の中で描かれる子どもの頃の思い出
絵本のはなちゃんみたいに、母のタンスの中にはよく入っていました。悲しいからではなく、落ち着くという理由ですが(笑)。
大きなタンスで、母が子どものときに着ていた服が大事に保管されていました。仕立て屋さんにつくってもらった1点ものが多くて。小学生から成人まで、年齢にあわせて少しずつおさがりをもらいました。
今も持っているのは、祖母が母に編んだ手袋です。ピンクと濃いピンクの縞柄で、中学生のときに母からゆずり受けて、今も使っています。祖母は編みものをする人だったのですが、色彩センスが独特で、たとえばハーフトーンと強めの色を組み合わせる感じとか、自分の絵も影響を受けているなと思います。
おばあさんから影響を受けた色づかい。種村さんにとっての「色」とは。
色が好きだからこそ、「なにかを伝えるために色がある」という感覚があって、意味を持たせないで使うことができないんです。絵本を描くときも最初に主人公の感情の流れに沿って背景の色を決めます。
わーっと感情的になったあとに、落ち着いた色はなんだろう? とか、色で大きな流れを演出したいと考えています。
一度ある子の前で、自分のつくった絵本を読みきかせしたときに、見せ場の場面で子どもが飽きてしまったことがありました。大人は言葉や雰囲気で共感してくれますが、子どもにはもっと視覚的に強く伝える必要があるなと気づいて。そこから感情的な場面や場面そのものが展開するときは、背景の色で表現することを意識し始めました。
(後半へつづく)