ブロンズ新社公式ブログ

絵本やイベント情報についてご紹介します。

成長は、おそい方が、とく。『マルマくんかえるになる』が、おしえてくれること。その2

『マルマくんかえるになる』が、おしえてくれること。その1
のつづきです。
令子さんから芸術品のようなテキストをいただき、
ここから、銅版画家で、本作がはじめての絵本となる
広瀬ひかりさんとのやりとりがスタートです。


マルマくんかえるになる』は、私が担当した絵本のなかでも、
ラフのやりとり、修正が群をぬいて多かった1冊。
もうずいぶん処分しましたが、手元に残っているラフだけでも、こんなです!
すごいですねえ。気絶してしまいそうです。


1冊分のラフ×7稿分+ページごとの細かな修正多数・・・


銅版画家として、才能もキャリアもすばらしい広瀬ひかりさんですが、
絵本はこれがはじめて。


私のストーカーのように執拗な赤字戻しと電話にも
(情熱と体力漲り、ぐいぐいいく若手編集者はとくにやばい)、
誠実さとガッツで応えて下さいました。
「それならもう、あなたが自分でおやりになったらどうですか?」と
言いたくなってしまいそうな要求も、作歌魂で打ち返してくれました。



マルマくんたちが住んでいる世界をつかむために、
教室やハス池の位置関係を把握する地図もつくりました。


「子どもはね、絵本の世界にまるごとすっぽり入っていくから、
矛盾があってはだめ。気になって物語から引き戻されちゃうの」と、
令子さんが話していて、子どもの本はていねいに細やかに、
つくりこんでいくのだと学びました。


母親になって実感しましたが、
たしかに子どもは、絵の細部をよく見ている。
息子も、たまにものすごいマニアックな指摘をしてくることがあります。




かわいいけど、マルマくんはこれではない


さて、こちらが初稿ラフのマルマくんです。
でっぷり太って、あまり、おちこぼれのいたいけな感じはありません。
なんなら、自力で浮かんでおよげそう。


絵本にでてくるマルマくんは、同級生たちに
「ずいぶん おおきな おっぽがついているね」
「きみ おたまじゃくしに もどるのかい」とからかわれて、
おみずをのんで ごほん、えーんとなく おちびです。


数年間、7稿くらいまでやりとりして、できあがったのがこちら。



ごほん、えーんと、ないているところを、がませんせんに救出されたマルマくん


おちこぼれなかまの、ルビーちゃんと、キーヨくんも
初稿ラフではこうでした。



一枚絵の構図としては美しいけれど、
主人公たちが生活する世界があって、
おはなしが流れていく絵本ではちがう。


登場するキャラクターも、子どもが自分をみるように親近感をもって、
あるいは「かわいそうねえ」と、ちょっと格下に見られるくらいの、
あどけなさ、たよりなさ、が必要です。


そんなことを話し合い、修正を繰り返して、
数年後にできあがったのがこちら。



かわいい! かわいい!
こんな子たちがおちこぼれていたら、
だれだって、うれしくなって、助けちゃいます。



度重なる修正にスランプになった広瀬さんを元気づけようと令子さんが送ってくれた、
かえる写真。これは、やばい。


こんな具合に、どのページも時間をかけて、ゆっくり、ゆっくり、
決して妥協することなく、だいじにつくりあげてきたのが、
マルマくんかえるになる』です。

広瀬さんの銅版画は、それはそれは美しく、
銅版画にしか出せない奥行きのある色味もすばらしく、
贅沢であたたかい、私の大好きな絵本になりました。



ちょっと前まで、いじめられて泣いていたのはどこ吹く風。
すっかりごきげんさんで、特別授業をうけるマルマくんたち


 こまったことが おきたら しずかに よく かんがえること。
 そして べんきょうすること。 すると こまったことは 
 すこしずつ すてきなことに かわっていくよ


これは、ねむっているマルマくんたちに、がませんせいが言う言葉です。
私自身、幾度となく心の中で唱え、すっかり暗唱してしまった、
自分にとってのお守りのような一節です。


強制される勉強はつまらないけど、自分が興味があることや、
自分のなやみを解決するための勉強はたのしいもんね。
そして事実、「こまったときは しずかによくかんがえる」と
時間はかかっても、必ず道はひらけるし、
自分で扉をひらいた道を、気ままに進むのは最高にたのしい。


「ゆっくり」の素敵さが、たくさんつまった、
滋味あふれる『マルマくんかえるになる』、
みなさま、ぜひご一読ください。




ふゆごもりのテキストもまた、すばらしいのです


そして現在、マルマくんの第2弾『マルマくんのふゆごもり』も、
しずかにゆっくり進行中です。こちらもたのしみにお待ちくださいね。


(編集部 沖本)