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ブロンズ新社の『平和をかんがえる絵本』

今年5月15日、沖縄県が本土に復帰して50年を迎えました。復帰から今日までの歴史や記憶を後世に伝えていく式典や催しが予定されています。

「平和って何だろう?」―いま、多くの方が考えたり、感じたりしているのではないでしょうか。沖縄の小学生の平和の詩から生まれた絵本をご紹介します。

 

『へいわってすてきだね』

安里有生 詩/長谷川義史

 

へいわって なにかな。

ぼくは、かんがえたよ。

 

おともだちと なかよし。

かぞくが、げんき。

えがおで あそぶ。

 

ねこが わらう。

おなかが いっぱい。

やぎが のんびり あるいてる。

 

へいわって いいね。

へいわって うれしいね。

(一部抜粋)

 


この『へいわってすてきだね』は、2013年の「沖縄全戦没者追悼式」で当時小学1年生だった安里有生くんが朗読した詩(©沖縄県平和祈念資料館)に、絵本作家の長谷川義史さんが絵を添えてできました。

安里くんの純粋で素直で力強い言葉は、当たり前の日常、平和の尊さに気づかせてくれます。

 

 

戦争を知らない私たちができること、それは、“平和について考えること”ではないでしょうか。

その想いで、弊社はこれまで「平和をかんがえる絵本」シリーズを刊行してきました。『へいわってすてきだね』に続き、1冊ずつご紹介していきたいと思います。

 

いま、ウクライナで起きている戦争の様子に、心を痛め、不安を感じている子どもや大人もたくさんいらっしゃると思います。

ご紹介する「平和をかんがえる絵本」には、様々な表現の作品があります。皆さんお一人おひとりの心に寄り添う作品が見つかりますように。

 

 

まずご紹介するのは、

シンプルな言葉と絵で、平和と戦争の事実を対比させた『へいわとせんそう』(たにかわしゅんたろう 文/Noritake 絵)。

 

へいわのボク せんそうのボク

へいわのかぞく せんそうのかぞく

へいわのまち せんそうのまち

(一部抜粋)

 

ボクやワタシ、家族、町、自然…日常の風景が、へいわのときと、せんそうのときでどう違うのか、見比べながらページが進んでいきます。

詩人・谷川俊太郎さんと気鋭のイラストレーター・Noritakeさん初の共作。

短い言葉とシンプルな絵が鮮烈な印象となって迫り、平和と戦争の本質について考えさせられます。

 

谷川さんは少年時代に戦争を体験。その時の光景がずっと忘れられないといいます。

 

”へいわのだいちにも、せんそうのたねはねむっている!

戦争が終わって平和になるんじゃない。

平和な毎日に戦争が侵入してくるんだ。”

谷川俊太郎

 

谷川さんの言葉からは戦争の生々しさが伝わってきます。

 

「へいわのボク」と「せんそうのボク」では、なにが変わるのだろう―

戦争や平和について、子どもとどうコミュニケーションをとろうか、悩まれている親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。この本が、親子で話すきっかけになればと思います。

 

▼読者の方より寄せられた感想をいくつかご紹介します。

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―『へいわとせんそう』は、9歳の息子にも、43歳の私にも、とても必要な絵本です。究極のミニマルでありながら、すべての大切なことを表しているから。(内田也哉子 文筆家)

 

―コメントやメッセージなどの主観はいっさい排除されて、ただ「事実」がそこに提示されているだけの単純な構成。軽いけど、とても重たい一冊なのです。(澤田康彦 暮しの手帖編集長)暮しの手帖 2019年初夏号 書評より

 

―この絵本は理屈抜きに直球で心に訴えてくれる。むずかしいことは何一つ書かれていない。最後に頬笑みと心に決意のような灯火をつけてくれる絵本だ。(一青窈 歌手)※2019年4月14日(日)付読売新聞書評より

 

Noritakeさんの線とこだわった紙の醸し出す印象が、この本を丁寧に見させることにつながっていると思いました。本づくりもいい。エンディングに向かう、よる、くも、の二見開きが秀逸。エンディングの効果を引き立てています。(松本猛 ちひろ美術館常任顧問)

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次にご紹介するのは、

台湾の国民的絵本作家 ジミー・リャオ 作『おなじ月をみて』(天野健太郎 訳)です。

 

少年ハンハンは、窓の外を見てずっと誰かをまっている。

そこへ、けがをしたライオン、ゾウ、ツルが次々やってきて......

少年がまちわびているのは誰?

www.youtube.com

 

『おなじ月をみて』は、ジミー・リャオさんが作家生活20年を記念して描き下ろした、自身でも傑作と呼ぶ一冊。

「恐れ」をテーマに描いた本書は、戦争と平和、悲しみと喜び、すべては同じ空のしたでおきていることを、強くそして穏やかに心に訴えます。

 

ジミーさんは以前インタビューでこう語っています。

 

“『おなじ月をみて』は、いかに自分の世界と向き合うかという、勇敢な子どもの物語だともいえます。男の子は待ち焦がれるあまり、さまざまな幻想を抱きます。そして、傷ついた動物たちをいたわり、手当をします。彼のあたたかさ、やさしさは、力となっていきます。”

 

“この本が優れているのは、強く訴えながらも、穏やかであるところだと思います。現実であり幻想、甘美であり残酷、いろんな要素が備わっています。わずか 32ページの中に、シンプルなキャラクターとセリフの背後に、大きな思索の余地があります。単純な物語ではありません。”

 

“月は、とても重要な象徴です。おなじ月のしたで、BBQをする人、戦争をする人、飢えている人がいます。月はときに明るく、ときに暗く、満ち欠けをくりかえしますが、その間にも、人の世は目まぐるしく変化します。”

(引用元:https://staffroom.hatenablog.com/entry/2019/09/05/102351

 

この『おなじ月をみて』は、人の世は絶え間なく浮き沈みし変化するけれど、月は変わらず輝いているということ、また世界中でおきている戦争や武力紛争もおなじ月のしたでおきていることを、を改めて気づかせてくれます。

 

 

続いては、

ベルギーの絵本作家が、自身の母がかつてレジスタンス活動に身を投ていたことを知り、反戦の意味をこめて描いた『かあさんは どこ?』(クロード・K・デュボワ 作/落合恵子 訳)をご紹介します。

 

戦争から遠いはずのまちに、突然の砲撃。恐ろしい音がどんどん大きくなって、近づいてくる。家は、めちゃくちゃに壊され、家族はだれひとりいない。「かあさんは どこ? みんなは?」守ってくれる大人はなく、知らないひとのなかにその子はたったひとり。

はしって、はしって、はしりつづけて……

 

壮絶な現実の中に、希望を見出すメッセージがこめられた絵本です。

 

スケッチ風の白黒タッチで描かれる物語は、恐怖、不安、悲しみに幼くして向き合わなければならない理不尽な現実、戦争の悲惨さを伝えます。「戦争と子ども」をテーマにした作品ではありますが、災害や暴力、貧困など、いま世界中の子どもたちが直面しているつらい出来事を想像せずにはいられません。

 

訳者の落合恵子さんは、物語の主人公が、「東日本大震災の被災地で出会った子どもたちと重なった」と、語っています。「私たち大人が、地球上のすべてのそれぞれの子どもから、いのちをおびやかし、子ども時代をうばう存在であってはならない」とも。

 

大人のひとりとして何ができるか、考えたいです。

 

 

最後にご紹介するのは、

ウクライナの作家が子どもたちに向けて描いた平和と戦争の絵本『戦争が町にやってくる』(ロマナ・ロマニーシン アンドリー・レシヴ 作/金原瑞人 訳)です。

 

この作品は、2014年に起きたロシアのクリミア侵攻とウクライナ東部の戦争を体験した著者が、「戦争」とは何か、子どもたちにシンプルな言葉で伝え、親子で話し合うきっかけになるような本を作ろうと、2015年に刊行されました。

 

刊行した2015年には、優れたグラフィックデザイン・ブックデザインの児童書に贈られる「ボローニャ国際絵本原画展 ラガッツィ賞」を受賞。その後世界14言語に翻訳出版され、実際に軍事活動が行われている地域の子どもたちから何十通もの手紙や絵が著者に届きました。

 

今回、翻訳15言語目となる日本語版を6月3日(金)に全国の書店で発売します。

残念ながらウクライナで起きている戦争は長期化しています。戦争の悲惨な現場を連日報道で目にします。この本に込められた著者の想いを、いま、日本の子どもたちに伝えたいと思い刊行することにしました。

 

あらすじ…

美しい町・ロンドに、ある日とつぜんやってきた「戦争」。町を愛するダーンカ、ファビヤン、ジールカの3人は、知恵と能力のすべてを使い、ロンドを暗闇から救い出そうとします。


著者のロマナとアンドリーは、インタビュー記事で以下のように話しています。

 

“この戦争についての絵本は古典的なハッピーエンドではありません。戦争は現実に我々を変えたし、生活は元通りにはなりません。精神的にも物理的にも両方……精神的にはもちろん、みんな変わりました。

殺された人、傷付いた人が何千、何万といます。毎日、この恐ろしい数字を目にし、味わったことのない果てしない喪失感を覚える。でも、みんなが互いに支え合い、乗り越えるために出来る限りのことをしています。”(一部抜粋)

(引用元:illustration Web https://illustration-mag.jp/interview/agrafka02 )

 

戦争が終わっても、傷は残り、変わってしまった町や人は元には戻らない―

平和とは何か、戦争とはどういうことかを、まっすぐに伝えてくれる絵本です。

 

『戦争が町にやってくる』

ロマナ・ロマニーシン アンドリー・レシヴ 作

金原瑞人 訳

<6月3日(金)全国の書店で発売>

 

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今回ご紹介した絵本が、平和について考えるきっかけや、親子で話し合うヒントになることを心から願っています。

 

#ブロンズ新社の平和をかんがえる絵本