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ジミー・リャオ(幾米)インタビュー           『おなじ月をみて』──世界と向き合う勇気❶

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『おなじ月をみて』は、ジミー・リャオが、母親の最期に寄り添いながら、描き下ろされました。ろうそくが燃えつきるように命が尽きて、この世を去るまでの2年間、急診や救急、集中治療室といった環境下で創作されたのです。

 

ジミー・リャオさんの作品の主役は、いつも子どもです。子どもの目を通して、あたたかで包み込まれるようなファンタジー世界へと誘い、現実と大人の残酷な世界とを対比させます。憂いと悲しみの時間を経て、やがて「美しくあり続ける力」を得、世界と向き合う勇気を見いだします。ジミー作品は、世代と国境を越えて愛されています。

 

──『おなじ月をみて』はどんなインスピレーションから始まりましたか?

 

ジミー・リャオ:ひとりの男の子が窓辺で待っていると、そこへ何かが現れる、というイメージが最初に浮かびました。これは面白いなと思って描いていきました。そのときはまだ結末は見えなくて、あたりに漂っている気配のようなものを描いていました。

 

──あなたの作品には、別れや死の憂い、悲しみが表現されていますね。『地下鉄』(小学館)の中で、「この世と別れてもいいと思っていた 世界の美しさに気づかぬうちは」とあります。傷ついた心が和らげられ、癒されていきます。『おなじ月をみて』もそうなのでしょうか。

 

ジミー:中国のある研究会に参加したとき、読者から「あなたの作品のメインテーマは?」と聞かれました。私は深く考えずに「死」と答えて、自分でもびっくりしました。児童書について話しているのに、「死」ということばが出てくるなんて。でも、たしかに、私はいくつかの代表作で、「死」について描いていますからね。

『おなじ月をみて』で描いたのは、「恐れ」でしょうね。終わりのないテロ事件、抗議デモ……不安なニュースは身近にあります。私たちはSNSや新聞で、あちこちで戦争が起きていていることを目にしますが、児童書ではほとんどこういった問題を取り上げません。

とはいえ、『おなじ月をみて』は、6歳以上に読むことをおすすめします。幼い子どもには、世界は幸せで満ちていて、汽車やクマさんのような楽しいものを見せるべきだと思うのです。

 

──本書から読者にどのようなメッセージを読みとってほしいですか?

 

ジミー:私はただ描いて、よい作品を完成させたいと思っているだけです。創作の高みを目指すのです。誰かに何かを読みとってほしいとは思ってはいません。それは私の仕事ではなく、私の作品の仕事だからです。

『おなじ月をみて』がこれまでの作品と違うところは、簡潔なスタイルです。じつはこれがとても大変でした。私の作品の中でも「傑作」と自負しています。

私は、創作には何か目的があるとは思っていません。創作は一種の自我の到達だと考えていて、作家生活20周年の節目として、シンプルなこの作品をつくりました。

 

──たくさんの著作がありますが、すべて月に関わりがありますね。月はあなたにとって何を表しているのでしょうか?

 

ジミー:月は、とても重要な象徴です。おなじ月の下で、BBQをする人[1]、戦争をする人、飢えている人がいます。月はときに明るく、ときに暗く、満ち欠けをくりかえしますが[2]、その間にも、人の世はめまぐるしく変化します。

 

──『星空』(トゥーヴァージンズ)の序文に、「世界とうまくやっていけない子供たちに」とありますが、あなたの作品は、子どもの心の内側に入っていく窓のようで、この本もそうですね。「恐れ」と向き合ったとき、子どもの方が親より強くなれるのではないかと思うのですが。

 

ジミー:親はもうダメだけど、子どもはまだ望みがありますね。『おなじ月をみて』は、いかに自分の世界と向き合うかという、勇敢な子どもの物語だともいえます。男の子は待ち焦がれるあまり、さまざまな幻想を抱きます。そして、傷ついた動物たちをいたわり、手当をします。彼のあたたかさ、やさしさは、力となっていきます。

この本が優れているのは、強く訴えながらも、穏やかであるところだと思います。現実であり幻想、甘美であり残酷、いろんな要素が備わっています。わずか32ページの中に、シンプルなキャラクターとセリフの背後に、大きな思索の余地があります。単純な物語ではありません。

 

──あなたの作品には印象的なセリフがよく出てきますね。「覚えてさえいれば、それは永遠に存在するものだろうか?」(『君といたとき、いないとき』小学館)とか。ご自身が書いた文章で、よく心に浮かぶフレーズがありますか?

 

ジミー:「喜びに満たされたと感じるそのときには もうそこに悲しみが浮かび上がってくる」だったかな。

 

──あなたの美しさの後ろには、ほんの少し悲しみがあるみたいですね。

 

ジミー:たくさんのですよ。

 

──悲しみの後には?

 

ジミー:悲しみの後には、美しさがあるのです。この歳になって、人生とはそういうものだと知りました。

 

──20年前のジミーが、今のあなたに遇ったとしたら、なんと言うでしょうか。

 

ジミー:「きみはよくやってるよ」と言うんじゃないでしょうか。こんなにまじめに努力してますからね。人生の根底には、悲しみがありますが、客観的に見ると、私は本当に幸運です。描きたいものを描けていますからね。

 

──今のあなたが20年前のジミーに遇ったら、何と言いますか?

 

ジミー:「けっこう長生きするよ。少なくとも20年はね」と言います。あの頃の私は、毎日死を恐れていましたから。

 

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ジミー・リャオ(幾米)

職業:絵本作家

星座血液型:さそり座、O型

年齢:20年前は40歳

好きな画家:マチスピカソ

最近考えている問題:昼食は何を食べよう

最近観た映画:ブレードランナー 2049

普段利用している公共交通機関:地下鉄とバス

 

台湾の「親子天下」ウェブサイトで、2017年10月27日にアップされたインタビューです。「親子天下」に転載許可を得ています。

取材:許芳菊

撮影:曾千倚

日本語翻訳:恩地万里

 

(若月眞知子)

 

 

[1] 台湾では中秋節によくBBQをします。

[2] 月に陰晴圓缺有り:蘇軾の中秋の名月を歌った漢詩「水調歌頭」。