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絵本『ケチャップマン』発売記念 鈴木のりたけさん特別インタビュー!<第2回>

★第2回★
ケチャップマン = 鈴木のりたけさん!?


ーー「ケチャップマン」というキャラクターがうまれたきっかけは?
のりたけ その当時は、時事問題などからインスピレーションを得て、
滑稽さを感じてもらったり、見た人に何かを考えさせるような、
風刺画っぽい絵を描いていました。いわゆる『シュール』な絵ですね。

すでにケチャップマンの世界観に近い絵ですね。
そんなとき、「ケチャップ容器の身体をしたやつが、
身体を折りまげたときに、中身がぴゅっと出てしまう」というのは、
おもしろいんじゃないか、というひとつの絵が思い浮かんだんです。
その時は、まずその絵を一枚描いて、しばらくそのままになっていました。


ーーそこからどうやって絵本にまとめたのですか?
のりたけ 描きためた絵を仕事の知り合いに見せたら、
「絵はそれぞれおもしろいんだけど、使われる場所や、何を訴えたいのかもっとはっきりさせて、
それを意識しながら描いたほうがよい」と言われました。
じゃあどうすればいいのかと考えたときに、絵を連作にして、
そこに文章をつけると、ストーリーとして世界観がわかるかな、と思ったんです。
そうやってできたのが『ケチャップマン』の原作で、「これって絵本だよね」って。
絵本をつくろうと思っていたわけではないけど、
できあがったものが結果として絵本のかたちになっていたので、
「じゃあ、コンテストに応募してみようかな」という感じですね。


ーーはじめての絵本づくり、手探りだったのでは?
のりたけ 最初は、コンテストの募集要項にあわせて描くところからのスタートでした。
要項を読んで、足りない絵や削らなければいけないところもあったので、「ああ、こうやって描くのか」とわかりました。


メモ用紙に描いた『ケチャップマン』のラフ(当時のもの)


ーーそのときに「絵本のつくりかた」がわかったのですね。
のりたけ 今でも考えていることだけど、絵本っぽく描くということを
意識しないほうがいいなと思っています。『しごとば』も、絵本をつくろうという発想ではなく、
東京で暮らす人のリアルな部屋を集めた写真集『TOKYO STYLE』(都築響一/著、ちくま文庫)
“仕事バージョン”があったらおもしろいのでは、というところからはじまっているんです。
自分の世界観をどうやって表現しようかと考えると、
今まで見たことのない、とんでもない化学反応がおきて、おもしろくなる。
たべもんどう』(2015年6月刊行)もそうだけど、絵本の市場はそれほど意識しないで描いています。
まさに今『ケチャップマン』が復刊になって、自分の絵本づくりの出発点はそういうことだったな、と思っています。


絵本『たべもんどう』(鈴木のりたけ・作、ブロンズ新社・刊、2015年6月初版)


ーーキャラクターや物語の設定について、どうやって考えていったのですか?
のりたけ コンテストに応募したときは、絵本のように文字をレイアウトしたものではなく、
絵と原稿用紙に書いた文章を、別々に応募しました。
「フライドポテトの専門店は、ポテト屋さんが北海道から上京してきて、
屋台ひとつひっぱって売り歩いた店長がはじめた店」というバックボーンも考えていたので、
文章がめちゃくちゃ長かったんですよ。絵本にするときに、泣く泣くカットしましたが。笑。


ーー壮大な物語設定があったのですね。
のりたけ 自分では、絵だけで(描きたい世界が)完結していたので、文章はあとからでした。
文章を創作するのははじめてだったので、かなり大変でした。
北原白秋新美南吉の童話集を買いこんで、「どういうのがいいんだろうなあ」と参考に読みました。


ケチャップマン』より


ーーこの絵本の主人公・ケチャップマンには、セリフがありません。
  物語は、ずっと第三者の視点で描かれていきますね?
のりたけ 今回、復刊するにあたって、文章はやわらかく、わかりやすくしました。
もとは、韻をふんだり、ことば遊びを意識して書いたので、難しいことばも入っていたんです。
韻をふんだ文章をつくるためには、セリフは難しくてあわなかった。
神の声にして、七五調で語らせたほうがしっくりきたんですよね。
それと、もうひとつ。ケチャップマンがおかれている状況は、客観的にしたほうが断然おもしろい。
「彼自身が実際に何を考えているかはわからないけれど、周囲に翻弄されるようすを、
端から見るおもしろさ」、みたいなものを意識していたので、この語り口調はぴったりかな、と。


ーーケチャップマン自身のキャラクター設定は、その当時ののりたけさんが投影されていますか?
のりたけ されています!笑。
デザイナー時代は、自分の名前で制作物が残らないとか、つくったものがすべて消えていってしまうとか、
この仕事はいったい誰から発注されたものなのか…などなど「俺は何なんだ!?」と悩んでいました。
これが本当に天職なんだろうかと、20代後半からは悩みをいっぱい抱えてましたね。


ーーまさにケチャップマンですね。


ケチャップマンは、自分のケチャップを活かせる場所・仕事をさがしています。
自慢のケチャップで成功したい!と思っていますが、実際にはポテトフライの専門店で
パッとしない毎日を送っているのです。ある日お店にトメイト博士があらわれて、
ケチャップマンのケチャップを買い求め、なんと気に入ってくれるのです。
そして、また次の日もトメイト博士がやってきて…


ーー作品からは、20代っぽい悩んでいる感じがつたわってきます。
のりたけ この作品は、自分のケチャップで一旗あげたい主人公が、うまくいかなくて、
ハッピーエンドでもなく終わる作品なんですよね。
デザイナーをやりながらも、世の中ハッピーエンドってあんまりないんだろうな…と。
だけど、仕事をしていると、いろんな不可抗力があって、それにこたえようと努力していくうちに
自分の能力や才能を、発見・再発見してもらうことってあるな、とも思っていましたね。
そういったことのくりかえしで、自分というものがおぼろげながらも
さだまっていくことが、劇的なハッピーエンドじゃなくても、たぶん幸せな一風景かな、とも思って。
「デザイナーとして認められているんだから、このままつづけてもハッピーなんじゃない?」という思いと、
「本当にそうなのかな?」という自分への問いかけが、この本をつくった当時にはあったかもしれませんね。



第3回も、おたのしみに。
(広報まつや)