『らくがき絵本』や『きんぎょが にげた』(福音館書店)などこれまで400冊近くの絵本を描き続け第一線で活躍する絵本作家、五味太郎さん。今回、初めてのエッセイ&写真集となる『6Bの鉛筆で書く』を上梓しました。70代の半ばを迎えた五味さんが今感じていることとは? お話を伺いました。(前編)

― 本ができあがって、いかがですか?
いい本ができましたね。でも少し気恥ずかしいな。
原画展も同じで、100%自信があるわけじゃないから、みんなどう思って絵を観てるのかなと、こっちは落ち着きはないよね。
でも表現ってさ、なんとなく気恥ずかしさも含んでいるものだよね。
― エッセイとこれまで撮りためた写真を1冊の本にして出されましたが、何かきっかけがあったのですか?
一昨年の暮れぐらいから、文章を書きたくてね。頼まれて雑誌に小文を書いたときに、書くのがまた面白いなと思って、その後も、自分で短いのを5、6本書いてたのね。そのことを話したわけではないのだけど、ちょうど編集長が「活字の本作りましょう」とか言ってきて。「いいよ」みたいな。タイミングがよかったんだよね。
俺は本を作るのが好きだから、作ろうってなった瞬間にぽっとイメージするわけ。
今回の文章には、イラストレーションはないなと思った。俺の中では、アブストラクトな絵をちりばめていくっていうのもありかなと思ったし、あるいは、一篇は書き文字のまんまで出しちゃうっていうイメージもあった。で、落としどころで言ったら、写真使うのいいな、って考えてたの。
そうしたら、また編集長が、「ねぇ、今度の本には、写真使いません?」って言うから、「俺もそのつもりだったよ」みたいな(笑)。
で、写真を入れるときには、文章とリンクした写真はなるべく排除しなくちゃいけなくなるわけね。
― それは、どういう意図があって?
絵本の場合は、絵と文章とが、同時進行しているわけ。
だけど今回の本は、短い文章がどこから読んでもいいように、構成されている。文章と文章の間に写真を入れたわけだけど、写真が前後の説明だったりする表現は、俺はノーサンキューだと思ったのね。文章と写真はもしかしたら少し乖離しているくらいの、その辺の快さみたいなものを探っていくような写真をピックアップした。
写真は今回の本のために撮り下ろしたわけじゃないんだ。昔、俺はフィルムで撮っていたんだけど、1999年からデジタルにかえたんだよね。その頃からのをひっくり返してみたら、99年にアメリカ、ボストンあたりに行ったときのが最初で。陽子さんといろんな写真見ながら、ここ面白かったよねとか、思い出話してさ(笑)あの作業は奇しくもすっげー楽しい作業だったのね。
何十点と選んで、半分ぐらいに絞ったんです。
あとはレイアウト的に、リンクするんだけどしないような、対立するんだけどしてないような、どこに置いてくかっていうのがまためちゃくちゃ面白い作業になって。
その辺のプロセスが、非常に俺の中で楽しかった。プロセスが面白かったものは、結果、いい本なんだと俺は思ってるわけ。そういう判断基準でいったら、これはいい本なんだと思う。
― この本の中で、最初に書かれたのは、どれですか。
「絵に遭う」かな。ゴッホの絵の話。あれは実はもうちょっと違うかたちで書いてたのね。それをもう1回わかりやすく書き直した。
― 書いて、お、いいなと?
成り行きで一応書いておこうというのと、本を出すって方向が決まったときに書くのとでは、ちょっと違うじゃないですか。だから、少し丁寧に書いてみたら、これこれ、この次元だよな、この感じで原稿を書いていこう、って。
70歳の真ん中までやってきて、自分で何考えてんのかなと思っちゃって。いい感じなんだけど、なんかやっぱり変わったなーっていうのがあって。表現欲のある人だから、書いてみるとわかるかなって。
絵本を描くのもほとんど同じなんだけど、いま俺、こういうことに興味持ってるんだなってのが、描いている途中からわかるんだよね。思いつきでぽっと始めるんだけど、あぁ、なるほどね、俺この辺やっぱり気になってたんだ、と。こういうのは、大体いい絵本だよね。
― 今回の本で、書いてみて気づいたことはありますか?
書きながらすごく面白かったのは、20、30年前、例えば『じょうぶな頭とかしこい体になるために』(ブロンズ新社/1991年、2006年改訂版)、あるいは『大人問題』(講談社/1996年、講談社文庫/2001年)を書いた頃に気がかりだったことが今回もいっぱいあった。やっぱり未だに学校ってくだらねぇなと思ってるし、交通問題もとんでもねぇなと思ってる。ワクチン問題もあるし、政治の問題も含んでね。
だけど、そういうテーマに対して筆が進まないんだよね。あ、これ興味ないんだと思ってやめてく、その堆積が逆に面白かった。
変わったということでいえば、昔は、病院嫌いで薬嫌いだった。60代の半ばでトラブったとき、自分の血圧は知らない、体重も知らない、大体何も知らなかったんだよね。
そんな俺が、いますごい興味あるんだよ、医術に。血管なんか詰まったら、パイプ入れりゃいいんだから、とかさ(笑)。そういう身体のメンテナンスを面白いなと思ったりする。その興味の変化が、結構面白いなぁと。興味の変化っていうは、つまり個人の変化だろうな。そこの変化をちょっと再確認したかった、みたいなのあるよね。
長いことテニスやってるけど、テニスの動きでも、自分の身体が変わってくるなっていうのをポツポツ感じる。左右は動くんだけど、前後の動きが弱くなるな、とか。球が上がったときと下がったときの追い方がね、動体視力って、やっぱり落ちてるよ。野球やってても分かるんだけど、球が向こうから来るのをずっと追うときに、途中で1回切れちゃったりするんだよね。きれいに追えないんだよ。そういうのを見ると、良い悪いじゃなくて、変化するなって。間違いなく。面白いよね。
自分は何に興味を持ってるのかなっていうのが、「書く」という作業を通してみると、やっぱり違う次元で見えてくるんだよね。
著者紹介
1945年、東京生まれ。
子どもから大人まで幅広いファン層を持つ絵本作家。著作は400冊近くあり、海外で150タイトル以上が翻訳出版されている。
書籍情報
『6Bの鉛筆で書く』五味太郎 作
・発売日:2022年2月18日(金)
・定価: 1,760円(税込)
・販売:全国の書店などで販売
・頁数:160ページ
・判型:205×165mm 上製
・書籍サイト:https://www.bronze.co.jp/books/9784893097033/