ブロンズ新社公式ブログ

絵本やイベント情報についてご紹介します。

『6Bの鉛筆で書く』刊行記念 五味太郎インタビュー(後編) ―絵本作家・五味太郎がいま思う、書くこと、そして、撮ることとは。

f:id:staffroom:20220215212732j:plain

 

『らくがき絵本』や『きんぎょが にげた』福音館書店などこれまで400冊近くの絵本を描き続け第一線で活躍する絵本作家、五味太郎さん。今回、初めてのエッセイ&写真集となる『6Bの鉛筆で書く』を上梓しました。70代の半ばを迎えた五味さんが今感じていることとは? お話を伺いました。(後編)

≪ インタビューの前編はこちら

 

f:id:staffroom:20220215214540j:plain

五味太郎にとって、「文章を書く」ということ

 

― 「脳内散歩に似てる」と、あとがきにありましたね。

 

脳内散歩なんだけど、絵本とは次元がちょっと違うから、両方とも面白い。だから俳句作るのも、また違う作業なんだよね。詩歌にはまだ興味を持ってるね。詩を書くっていうのはちょっと違う作業なんだよ、文章書くのでもなく小説するのでもなく。

文章を書くのは、やっぱ難しい。文章って、作れないからね。造語しちゃう人もいるけど、俺は造語は原則的にしないことにしてるから、ありものの言葉を並べる。それがすごく難しい。あとは自分の癖かもしれないけど、ちょっと横に飛んじゃったり、違うイメージを持ってきちゃったりして。文章は一種の整合性みたいなものがどうしても必要だから、それについては、結構悩むというか、格闘するよね。

 

「美しい風景」ってタイトルの短い篇。あれは、日光と那須の間ぐらいに、大草原の原っぱがあって、そこでたまたま立ち小便をしてた。その時、長い草の上を蛇が泳いで渡ってったんだよ、すーーっと、ずーーっと。すんごい綺麗、不思議だなと思って。それを絵で描くのは簡単なの、あるいは写真を撮るなんて。それを文章にする楽しさってあるよね。「腰の高さほどの草」というように、まず設定しておいて書いていく。

 

文章を書くときに、なるべく形容詞を排除する、っていう鉄則があるのね。それから動詞を形容する副詞。「頑張って」やりましたとか。あるいは副詞に非常に似ているオノマトペという擬態語。「どんどん」やりましたとか。なるべくそれらを排除しないとだらけるよね。だらけた文章を読むと、ほとんど形容詞が多いんだ。

例えば「美しい心」とか、文章書きは使っちゃ駄目だよね。あえて「美しい風景」ってやるときには、度胸がいるんだよな。その「美しい」には含みやいろんな美しさがって、「美しい風景」という言葉はタイトルには使えるかな、みたいなことを考えながら書いていく。

 

いちいち時間がかかる。だから面白いんだよね、文章書くって。その人が出るもん、完全に。だから、説明する部分をなるべく排除できたら最高にいいんだけど。叙事ってあるじゃない。物事をそのまま書く、そのトレーニングをものすごくしたいんだよね。とても大変なことなんだけど。

 

f:id:staffroom:20220215214426j:plain

 

読み手の感情がどこで現れるかが楽しみ

 

― 淡々と事実を書かれている文章だから、スッと入ってきて読みやすく思いました。

 

いい文章なんだよ、多分(笑)。その淡々とっていうのができれば、もう理想だよね。

志賀直哉の文章が大好きで、ちょっと影響されてる。ストーリーだとか事件だとかが、ないんだよね。淡々と書いてある。ま、あの時代のひとつのスタイルなんだろうけどね。外国で言えば、ガルシア=マルケス。叙事、事柄がどんどんすごいスピードで出てくる、感情なんてのはあとから追っかけていくぐらいの感じで、ああいうのはわりと好きだよね。

 

感情が、どんな感じでついてくるかに興味があるんだろうな。感情そのものに興味があるんじゃなくて、ある叙事の中のどこかに、ふっとした感情が出てくるのを一番楽しみにしてるみたいなところがある。

 

― ご自身で書いた文章を自分で読んだとき、どこで感情が動くかも気にされるのですか?

 

もちろん。だから俺、自分の文章が一番好きだもん(笑)。『ときどきの少年』ブロンズ新社/1999年刊)も時々読み返すけど、また泣いたりして。自分で、この人いい人だなって(笑)。笑われるんだけど、俺の文章が一番面白い。

絵本に関しては、こういう風に読んでっていうのを放棄してるような気がする。いろいろに読む奴がいて、特に外国なんか「あ、そういうところでウケるか!」みたいなのが楽しみだな。

 

パッチワークのように文章と写真を組み合わせる

 

― 絵本は「こういうテーマが描きたかったんだって描いていく感じ」とのことですが、この本については、どんな感じで進んだんですか?

 

話を作っていく、小説するっていうのは、俺あんまり興味がないんで。だから、一本で筋立てるっていうような話はない。そこだけ、そこだけを切り取った感じのオムニバスだからやれるんだろうね。バラバラに書いて、それを組み合わせる感じ。どれをアタマに持ってこようかなみたいな、そういうパッチワークのような面白さがあるよね。

1篇で絵本1冊描いてるのとすごく似てる。全部で35篇だから35冊の絵本描いたのと同じじゃないかな。

 

― 素敵な写真が多くありますが、写真はどういう基準で撮ろうと思われるんですか?

 

友だちにプロカメラマンがいるけど、「太郎が撮ると違うんだよね」ってよく言われて。同じ対象を撮っても、撮り方が違うんだよね。なんか俺、正面で撮りたいみたい。斜めに撮るってことをあんまりしたくない。

あと人様が書いた字って、ちょっと好きなのね。ガキが書いたやつとか。タイポグラフィが綺麗にレイアウトしてある瞬間とかがあると、正面で撮る。グラフィックが好きなんだろうな。グラフィック化された感じを、どうしても撮ってみたい。

 

そんなに計算してない。ここでシャッター切ったんだよねっていう自意識があるわけじゃなくて、あぁ、いいな、いいな、って撮った結果かな。

 

f:id:staffroom:20220215214458j:plain

 

老い・衰えではなく、変化する面白さを楽しむ

 

―「テニスの動体視力で自分の変化に、いいとも悪いともなく気づく」とおっしゃっいましたが、自分の衰えてきたところや若かったときと変わってきたところについて、気持ちの変化や抵抗感はありますか?

 

俺いま76歳で、今年77歳。でも、俺がやってんじゃないからなっていうのがあるね。俺が努力して、よし77になるぞって頑張って、達成感!ていうわけじゃなくて。人によっては、自分がこうやってきたって達成感を感じる人もいるみたいだけど、俺はそれを持てないなと思って。

 

こういう仕事してると、「どんな子どもでした?」ってよく質問を受けるの。でも、俺、子どもやってた憶えないっていう感じがあって。あえて言ったら、ずっと五味太郎やってたみたいな。

で、気がついたら後期高齢者ってなってさ。そうなったときに、何でもいいよ呼び方なんてって思っちゃう。俺はそれを目標にやってるわけじゃないから。

 

最近は、結構髪が白くなってきて、かっこいいなと思ってる。この辺には白髪がないなとか、あ、少し出たぞっとかって。なんか植物栽培みたいな感じ、芽が出たな、来年も生えるかなって(笑)

 

白髪も身体も、変化していく面白さっていうのが前面に出ちゃってるから、変化したときの衰えとかっていうのは、うるせえっとか言ってればいいじゃない。

子どもは劣ってるとは絶対思ってないわけじゃない? 老人が劣ってると思う必要も全然ないんだろうなと思う。

 

いま、麻雀が前よりすごく楽しいのは、その価値観が似てるメンバーで面白い。みんな、丁寧にその時間を楽しむし、大事にしてるんだよね。途中にお茶のインターバルを入れて話して、終わって、また来週って別れていくみたいな、あの感じがとてもいい、礼節で。若い頃の麻雀って本当に雑だった感じがする。

 

大きな社会的な価値観に影響されてるから、アメリカ的、西洋的な考えって、「力、力、力」でしょ。象徴的な言葉で言うと「Ever onward=限りない前進」。それをやってる世界だから、みんながつらいのに、いまだにそう思ってるんだよね。何しろ「今日より明日の方がいい、明日より明後日」。だから1年生より2年生は立派じゃなきゃいけないことになるのさ。

 

金融の世界で、右肩上がりって言葉があるけど、別に右肩上がらなくていいじゃん!って捉えただけで、全然価値感は違うわけよね。限りなく前進っていうのを1コやめたら、全然楽なの。

 

50歳過ぎたら、そこから解放されるはずなんだよね。今日より明日、明日より明後日じゃなくて、ちゃんと落ちてくようになってるから。今日も明日も「落ちたり下がったり」って、いつも平均して「波打ってる」んじゃないかな。ずっと右肩上がりなわけないよね。

 

≪前のページを読む

 

(広報担当 森)

 

 

著者紹介

f:id:staffroom:20220215205711j:plain

五味太郎

1945年、東京生まれ。

子どもから大人まで幅広いファン層を持つ絵本作家。著作は400冊近くあり、海外で150タイトル以上が翻訳出版されている。

 

書籍情報

f:id:staffroom:20220215205803j:plain

『6Bの鉛筆で書く』五味太郎

・発売日:2022年2月18日(金)

・定価: 1,760円(税込)

・販売:全国の書店などで販売

・頁数:160ページ

・判型:205×165mm 上製

・書籍サイト:https://www.bronze.co.jp/books/9784893097033/