鈴木のりたけさんのライフワークにして代表作の「しごとば」シリーズが、刊行15周年を迎えました。「しごとば」とともに歩んだ15年と、これからの「しごとば」について、お話を伺いました。
――この15年間で変わったことはありますか?
『しごとば』は、仕事空間っておもしろい、道具っておもしろいと、空間と道具にフォーカスしたいと思って始めました。ところが、取材でいろいろな人と会うことで変わっていった。
職業の全体像を伝えるには、その人だけじゃなくて、出入りしている業者さんがいたり、人間ドラマがある。
自分の仕事の話になると、みなさん誇らしげに、楽しそうに話すので、人の生き生きとした姿も描いた方が、仕事の本質が表現されると思うようになりましたね。
そこから始まって、「しごとへの道」までくると、ここまで進化したかという気がします。
――「しごとへの道」では、これからを生きる人たちに向けたメッセージのように感じました。
「しごとへの道」は、「しごとば」のスピンアウト版みたいなイメージで始まったけど、やるからには、自分が社会に出る前に思っていたことに対する、一つの答えになるような有用なものを残したいと思いました。
15年続けてきたから、社会的にも必要とされている手ごたえがあったので、ちゃんと応えたいっていう気持ちが出てきたと思います。
――この15年間で印象深い出会いや、忘れられない出来事はありますか?
つくってきた絵本の一冊一冊が、自分の人生のステージとリンクしています。
最初は『ケチャップマン』みたいな、自分の中のドロドロした思いがダダもれしてる本から始まって、『しごとば』みたいに、もうちょっと戦略的に絵本の形に落としこんだものになって。
それと、子どもの存在が大きいですね。自分の子どもと日々公園で遊ぶようになって、子どもを喜ばせたり、笑わせるにはどうしたらいいかと考えはじめた。毎日読み聞かせする中で、こういう本だと喜ぶんだとか、あまり子どもに迎合してもダメだなとか、大人もちゃんと身を入れて読めることが大事だなとか、ものすごく分析しながら読んでいました。
僕は、絵本業界に引っぱられるようにして入ってきたので、絵本に対しての造詣が浅かったけど、子育ての中で深めていった。絵本はけっこうおもしろいぞと、改めて思いました。
作家さんたちとのつきあいも増えて、tupera tuperaさんのコラージュ手法を知って、すすめられたハサミを買ったり、みやこしあきこさんが木炭で描いていたから、僕も使ってみたり、パステルに手を出したり。旺盛にインプットをするようになった。
絵本をつくり始めて、ともに成長してるんですよね。
――のりたけさんの視点は、親近感や臨場感があって、わくわく思わせてくれるところが15年間変わらないことだと思います。
昔から講演で、「おもしろがると世界がひろがる」と言いつづけてるけど、「しごとば」もそう。「自分が楽しんでやることで、ふだん見えないものが見えてくる」っていう一点突破の先に、「仕事」が見えてくる。
おもしろがることを常に貫いてきたのは、よかったと思います。
――「しごとば」シリーズは、これから先にどんな進化をしていくでしょうか?
これまでは、あの職場はおもしろそうとか、いろんな道具がありそうと、職業を選んできたけど、パッと飛びこむだけでも絵本の絵はつくれるって自信もついてきた。
それに、仕事の考え方もこの15年間で変わってきて、自分で仕事をつくっていかなきゃいけない時代になってきている。こんな仕事も成立するんだと思うような職業も増やしたい。
「しごとへの道」で描いた「こんな人だからこの仕事」というような視点が、「しごとば」シリーズに反映されてもおもしろいかなと思います。
――ありがとうございました。これからの「しごとば」シリーズも楽しみにしています!