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絵本『ケチャップマン』発売記念 鈴木のりたけさん特別インタビュー!<最終回>

★第4回★
だんだん絵本作家になっていく

ーー仕事をしている、働く大人にとって、心にささる絵本『ケチャップマン』ですが、
  子どもたちからはどんな反応がありましたか?
のりたけ 最初の本が出たときに友人の子どもたちに見せたのですが、
1ページ目を暗唱してくれる子がいたり、結構おもしろがってくれました。
ふりがなもふっていない、難しいことばなのに、ちゃんとおもしろがってくれたので、意外といけるな、って。
「もしかしたら僕、このまま絵本作家になっちゃうんじゃない?」ってちょっと思いましたね。


ーー本当に、絵本作家になりましたね!
のりたけ そうねー! びっくりですよ。笑。


ーー出版後すぐに、次の絵本のオファーがあったのですか?
のりたけ 3人の編集者さんから連絡がありました。
今思えば、この1冊の本が絵本作家の道を切り開いていきましたね。
その編集者さんというのは、ブロンズ新社と、『ぼくのおふろ』や『す〜べりだい』のPHP研究所さん。
連絡をくれた3人中2人と今でもいっしょにお仕事をしています。
いい人に出会えるかどうかはとても重要なので、僕はすごく恵まれていたと思いますね。


ーー「絵本作家になれるかも?」と思ったり、編集者からのオファーもあったりで、
  少しずつ作家としてのキャリアをスタートしていったのですね。
のりたけ その頃、(デザイン)会社に「打合せしてきまーす」って言って、
近くの喫茶店で絵本の企画の打合せをしたりしていましたが、その時は、絵本作家気取りでしたね。笑。
会社に戻ってデザインの仕事をするんですけど、そっちはもう、バイト感覚でした。
今思えば申し訳ないくらいですけど。


ーー編集者からオファーがあったことで、これで自分の名前で仕事ができる!と思いましたか?
のりたけ でも、そうは言っても、本当に絵本が出るのかどうか、半信半疑でもありました。
デザインの仕事とちがって、絵本は誰かから発注されるわけではなく、自分から生み出すので、
絵本づくりが仕事として成り立っているという実感がまだありませんでした。
その後『しごとば』が出て、ある程度売れた実績が出たあとに、
自分の出版活動が、世の中の経済の一環として成り立っているとわかって、
「よし、これでいける!」とようやく思いました。
それまでは「いけたらいいんだけどね〜」くらいで、そんなに甘くはないと思っていました。
本当に絵本の仕事が成り立つのか、悩みながらだったので、
軽い気もちで転身!とはいかなかったですね。



きょうも おそくに かえりつき ひとり ながめる まちあかり(本文より)


ーーチャンスを引き寄せて、切り開いていったという感じでしたか?
のりたけ 「切り開く」っていうと、次!次!とすすんでいくようなイメージだけど、
そうではないですね。片足は軸として、今いる場所にベースをおきながら、
もう片方の足でさぐってさぐって…という感じです。
そうやってさぐりながら、ちょっとずつ自分の時間や寝る間を削って、新しいほうへ向かっていくんです。
次へいけそうだったら、「んーー、よいしょ!」と移動して、
また、片方の足でちょっとずつ次はどこだ、とさがすようなやり方ですね。

華麗に転身しているように見えるかもしれないけど、
(片足でさぐっている)両方にまたがった、どっちつかずの状態は、すごく苦しいんです。
重心もばらけているので、体勢を維持するのも、精神的にも苦しい。
「どっちをやってるの?」と自問自答もするし。
でも、この苦しみっていうのは、しょうがない。肯定していくしかないんですよね。


ーー『ケチャップマン』に通じる考え方ですね。
のりたけ 天職って、ぽっと与えられるわけじゃなくて、
いけるかも、やっぱりだめかも…の中途半端な姿勢のくりかえしでちょっとずつ気づいていくものかな。
その状態ってすごく苦しいから、みんなやりたくないし、やらない。
だけど、そこを意識してやらなきゃいけないな、って思っています。


ーーのりたけさんの、苦しい状態を支えているものってなんですか?
のりたけ ひとつは、あきらめじゃないけど、「そういうものかな」っていう思い。
もうひとつは、「成功したらたのしいぞー!バラ色だぞー!」と自分を奮い立たせること。
ふたつは相反することではあるけど、ちゃんと身銭を稼ぎながらじゃないと、
新しいことに挑戦できないな、と思っているので。
今、活躍している小説家とかアーティストも、別の仕事をしながらって人も結構いますもんね。


ーー絵本『ケチャップマン』は、読んだ人がそれぞれの思いで自己投影できる作品だと思います。
のりたけ そうですねー。本が出たあとに、原画展をやったんだけど、
最後の絵をサラリーマンの男の人たちが、じーーっと見てて、
「わかるわ〜、これ俺だわ〜〜」という感じなんですよね。それはおもしろかったですよ。


つかれて かえる ゆうぐれの みち あたまの キャップを なでる かぜが
ふいに ぼーっという おとを たてると ケチャップマンは ひさしぶりに わらった (本文より)


ーーある知り合いにこの絵本を見せたとき、ちょうど人事異動があったばかりで、
  「私、今まさに“ケチャップマン状態”なんです」って言っていました。
  読んだ人が、何かを考えるきっかけになる本なんですね。
のりたけ “ケチャップマン状態”って流行らせたいですね!笑。
でもまさに、そう感じてもらえたら。そう思わせようとして作為的に描いたわけではないし、
最初から絵本のユーザーを意識して、共感させたいと思ったら、
こういう画風や内容にはなっていなかっただろうから、自然にそう読み解いてもらえるのはうれしいですね。
この作品を描いたときの僕の気もちが、絵本を通してみんなにわかっちゃうのね!という感じですね。笑。



鈴木のりたけさんのインタビュー、いかがでしたでしょうか。
以前にのりたけさんが受けたインタビューのなかで印象に残っていることばがあります。
それは、「楽しむための努力」。ご自身が大切にしている考え方だそうです。
絵本を描くこと、そのための取材に、とことん集中する、
苦しみのまっただ中でさえ努力を惜しまない姿勢が、
のりたけさんの最大の魅力なんだと思います。


絵本『ケチャップマン』、ぜひ読んでみてくださいね。
そして、そのあとに「しごとば」シリーズを読んでみると、
また違った印象を受けるかもしれません。


連載にお付き合いいただき、ありがとうございました!
来週は、取材のおまけ写真をアップするのと、
なんと「4コマまんが」の連載をスタートします!
おたのしみに!(広報まつや)