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ペク・ヒナ×長谷川義史トークイベントレポート④

  1冊目の『天女銭湯』長谷川義史さんが翻訳することを

韓国の出版社「ベアブックス」に伝えたところ、本当に喜んでくださいました。

というのも、ベアブックスのウ編集長が、長谷川さんの絵本が大好きで

『おじいちゃんのおじいちゃんの おじいちゃんのおじいちゃん』(BL出版)を読んで、

「絵本でこんなことができるのか」と衝撃を受けたそうです。

そこから、自身の出版社を立ち上げられたと聞きました。

今日はペク・ヒナさんのほうからも、

絵本作家・長谷川義史に聞いてみたいことがたくさんあるそうで……。

 

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ペク・ヒナ 実のところ、とても緊張しています(笑)。

私の本のなかで、どの本が気にいっていらっしゃいますか?

感想もあわせてお伺いできると嬉しいです。

 

長谷川 最初に翻訳させていただいた『天女銭湯』、

ああいうユーモアのある世界が大好きです。

とてもいい作品に出会えたなと思って。思い出深い本です。

 

  ペク・ヒナさんが今回、韓国から自分の本を持ってこられて、

長谷川さんへサインをお願いされていたのは、

『てんごくのおとうちゃん』(講談社)ですよね。

最初読んだとき、号泣されたとか。

 

ペク・ヒナ この本は読むたびに泣いてしまいます。

長谷川先生は、ご自身の作品の中で一番好きな作品は何ですか?

 

長谷川 全部自分の作品ですから、できのいい子悪い子、

よく稼いでくる子……いい子に限って稼いでこなかったり(笑)。

「あんたが一番好きだよ」と言えないんですけど、

『てんごくのおとうちゃん』は、ものすごく大切な思い出を描いた作品です。

『おじいちゃんのおじいちゃんの おじいちゃんのおじいちゃん』は

初めて描いた絵本で、うまく描けなくて何度もやり直して

丸3年ほどかかった作品なので、思い入れは一番あるかもしれません。

 

ペク・ヒナ 『おじいちゃんのおじいちゃん〜』では、

過去について、人間の歴史について、驚くべき表現方法で語られていて、

こんな演出の仕方があるのかと驚かされました。

 

長谷川 10代の頃から、ずっと妄想していたことで、

どんな人でも生まれたときには必ずお父さんとお母さんがいて、

それは平等なことですよね。お父さんとお母さんにもお父さんとお母さんがいて、

たどっていくと大昔のおさるさんみたいなひとに必ずつながっている。

不思議なことやなー、気の遠くなることやなーと、ずっと思ってたんですよ。

だから、編集者に「どんな絵本をつくりたいですか」と聞かれて、

こんなことを考えていると提案しました。

ただ、自分の思っていることを絵で表現することがなかなかできなくて、

ものすごく苦労して、何度も描いては失敗を繰り返しました。

ペク・ヒナさんとなんとなく共通していると思うのですが、

いまって、一度描いた絵や作った立体をパソコンに入れて調整することって、

簡単にできることだと思うんです。でも、そういうことは絶対したくないと

ペク・ヒナさんおっしゃってて、ぼくも必ず絵の具と筆で描いていて、

失敗してもそういうのを大切にしたいと思っています。

だから1冊目は3年もかかったのですが……。

そういうアナログ的な感覚は、似てるかなと思ってます。

 

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ペク・ヒナ そう言っていただけて、光栄です。自作について言えば、

絵の完成度が高くても、ストーリーのほうで演出に欠けている本もあるのですが、

先生の作品は、デビュー作から私たちに衝撃を与えてくれます。

そのような演出力は、どうしたら身につくのでしょう?

演出力を身につけるための勉強方法があるのか、教えてほしいです。

 

長谷川 そんなアカデミックな勉強はしていないのですが……。

さっき控え室でお話していて、全くその通りやなと思ったのは、

絵本を1冊つくるのは映画をつくるのと一緒だと思うんです。

ペク・ヒナさんは、映画1本撮られている映画監督なんですね。

「主人公はこんな男の子にしようかな」というのは、キャスティングですし、

「その子がどんな動きをするのか」というのは演技指導、

「動きをどこから撮すか」というのはカメラワークの仕事です。

そういうことが、最初はなかなかできなかったのですが、

徐々にでしょうか。

 

  ペク・ヒナさんの描く家族は、たとえばソファにも現れていますね。

いい感じでくぼんでいて、たぶんシミもついていて……

その生活感を演出していて、すごいですねとお話したら、

 

「私はもうちょっとスタイリッシュな作家になりたいな」と言われた。

その答えに、長谷川さんも「わかる」とおっしやってましたね。

 

ペク・ヒナ 私が抱えているジレンマというのは、

すべて計算してつくっているというところです。

どんな素材か、どのようなスケールで撮影するか、

日取りも段取りもすべて最初から決めます。

スケッチがほぼファイナルに近いものですので、

逆に言うと、自分が予想した分しか出来上がってこない、

自分がつくる前に想像したものしか表現できていないのでは

と思ってしまいます。自分の手先にまかせた、自由な広がりに

たどり着いていないのではないかというジレンマを抱えています。

 

  そうなんですね。先ほど控え室で、ペク・ヒナさんが長谷川さんに

「人形絵本をつくってみませんか」とおっしゃっていましたね。

 

長谷川 ちょっとやってみたいですね。ぼくの思っている画面を、

背景は舞台の書き割りみたいなので、登場人物は紙でつくった平面のやつで

ええんですけど……それを写真に撮って表現したら、

また新しい自分の作品ができるんとちがうかなと考えたりはするのですが、うーん。

 

ペク・ヒナ よかったら、長谷川さんの世界を、私が人形にしてつくりましょうか。

完璧な長谷川世界を再現してみせる自身はありますよ(笑)。

 

  そんなことができたら、素晴らしいですね。ぜひトライしてみてください(笑)。

 

 

(広報 今井)