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ペク・ヒナ×長谷川義史トークイベントレポート③

長谷川 ペク・ヒナさんに質問なのですが、『あめだま』を口にいれたときに

いろいろな声が聞こえてくるじゃないですか。

あれは韓国でそういう言い伝えみたいなものがあるのか、

それとも子どものときに感じられたのか……発想はどこから生まれたのですか?

 

ペク・ヒナ この絵本は、昔、テレビ局でアルバイトをしていたときに

考えたストーリーが、もとになっています。そのときは、

ペパーミントキャンディを食べると一気に耳がすっきりとして、

いろんな音が聞こえてくる……というイメージでした。

でも、心の声とか、ものの声が聞こえてきたら面白いのでは、

というアイディアから出発しています。

 

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  ドンドンのサイズにぴっりのこの椅子は、どのようにつくったのですか?

 

ペク・ヒナ もともと私は人形遊びが大好きで、

バービー人形の家具や服、小物を集めていました。

これは、バービー用のピンク色のテーブルセットの椅子に

ペンキをぬってしつらえたものです。

ドンドンにはサイズが少し大きいので、

おしりの下に厚めのものを敷いた状態で撮影しています。

 

  バービーのミニチュアにあわせて、人形のサイズを決めたのですか?

 

ペク・ヒナ そうだったような気もするし、そうでなかった気もします。

家の作業場で撮影を行っているので、空間の制約があります。

あまり小さすぎるとディテールを表現しきれない、

大きくしすぎると作業場におさまりきらなくなる。

一番適したサイズを探した結果なのかもしれません。

この食卓は、バービー人形の1960年代のビンテージ家具で、

入手困難品ものをネットで購入しました。

私が子どもの頃、家にあった食卓にそっくりで、

私自身ドンドンのようにテーブルの下にもぐって

ガムをくっつけていた記憶があったので、この家具を使ったんです(笑)。

 

  ここまでディテールにこだわってつくっているのはすごいですね。

 

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ペク・ヒナ ありがとうございます。

でも、本を読み返すたびに、「こうすればよかったな」と

後悔がこみ上げてきて、頭が痛くなります(笑)。

さっきも久しぶりに『あめだま』を見て、

台所シーンでは、父親の手から泡が落ちているような感じで

表現すればよかったなと思いました。

 

  なるほど。どうしてそこまでこだわれるのでしょうか?

 

ペク・ヒナ  絵よりも立体で表現された写真というのは、

現実に近いリアリティがありますよね。ヘタをすると、

単なるセットで撮った写真という印象を与えかねません。

 

風やお天気の雰囲気などをよりリアルに表現しないと、

嘘っぽくなってしまいます。だからこそ、

細かな部分というのは絶対に欠かせない大切な要素です。

 

長谷川 「お父さんのここに泡があったほうがいい」というのは、

絵を描く立場からすると、その泡だけで何かを語ると思うんですよ。

お話のなかの、見えないバックグラウンドが見えてきますよね。

『あめだま』では、「お母さんが出てこない」という設定を

綿密に設定されていると思うのですが、いかがですか。

 

ペク・ヒナ はい、おっしゃる通りです。

私のデビュー作『ふわふわくもパン』では、

お父さん、お母さん、お姉さん、弟がいるという、

ある意味完璧な理想の家族が登場します。

ストーリー上そうなってしまったのですが、

発売後とても申し訳ない気持ちになりました。

もし、私が子どもを育てているシングルマザーだったら、

子どもにこの本の読みきかせをしたとき、

すごく胸が痛むのではないかなと。

子どもの立場からすると、「自分の家族は完璧ではないのではないか」と

傷ついてしまうかもしれないと感じたからです。

そのため、父親や母親がいなくても、また血縁で結ばれていなくても、

ひとつ屋根の下で暮らし、お互いに愛しあい、

頼りあう絆を持った関係であれば、

それは完璧な家族ではないかということを表現したいと思いました。

『あめだま』には、母親がどこにいるのか具体的に描かれていません。

亡くなっているのかもしれないし、離婚したかもしれない、

出張に行っているのかもしれないですが、それはわかりません。

 

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そのあたりは、読者のみなさんの状況に置き換えて、

自分なりの解釈をしてほしいという願いがあります。

 

(つづく)