韓国と日本を代表する絵本作家のコラボ『あめだま』の発刊を記念して、
ペク・ヒナさんによる韓国語の読み聞かせ、
つづいて長谷川義史さんによる日本語の読み聞かせで、
トークがスタートしました。
ペク・ヒナさんは、実際に撮影した人形を持って来日してくれました。
人形絵本の作家として、人形づくりにはじまって、セット、洋服と小物、照明、
そして撮影までを、ぜんぶひとりでつくられるという、世界でも特殊な絵本づくりですね。どのようにして、制作されているのですか。
ペク・ヒナ これはダミーブックとよばれるもので、最初に、
全体のストーリーを、ほぼファイナル(完本)に近いかたちでつくります。
可能な限り最終形で表現したいスタイルや雰囲気を
ダミーブックにこめます。長い制作期間のなかで、
道を外さないための地図のような役割を果たしてくれます。
この本をつくっている当時は、息子が小学2年生。
彼は私と似て、人とコミュニケーションをとるのが苦手で、
友だちをつくるのが得意ではありませんでした。
母親として子どもに、生活面や教育環境はサポートできても、
友だちづくりまで助けることはできません。
そのことに、私はとても胸を痛めていました。
そんな母親としての想いが、『あめだま』にはつまっています。
ですので、主人公のドンドンが着ている服も、
当時息子が着ていた服と同じデザインです。
当初、この少年をデザインしたときは、
もっと目が大きな子どもだったのですが、
感情表現が苦手な子ですので、性格に合わせて
目も口も小さくなっていって、
耳も髪でかくしているようなキャラクターになりました。
父親のめがねを白く曇らせたのも、
父親も少年と同じく、コミュニケーションが得意でないことを
表したかったからです。
だからは、彼の目が見られないようにしました。
ペク・ヒナ 人形を置いて、小道具をそろえ、照明を当て、
さまざまなテストショットを何枚も何枚も撮影します。
作業は大変ですが、完成が近づくにつれ、
まるでそのシーンが生きているように見えてくるのは、
本当に楽しいものです。
『あめだま』1冊をつくるのに、どれくらいかかりましたか?
ペク・ヒナ このお話は、昔考えたストーリーをもとにして
絵本につくり直しているので、そのストーリーがあったことを
前提として考えると、完成(入稿)まで10カ月かかりました。
これだけの制作を10カ月で! すごい集中力ですね。
ペク・ヒナ 私はもともと短期間で全力疾走して早く終わらせる
タイプなのですが、子どもを2人育てていたので、
マラソン選手のペースで作業をせざるをえませんでした。
作業の合間に子育てという現実に引き戻されて、
また作業に戻るという生活だったので、大変でした。
一番時間がかかったのは、どのシーンですか?
ペク・ヒナ 落ち葉のシーンには、こだわりました。
落ち葉はパンチを使って1枚1枚手作業でつくっていますし、
秋のこもれびを表現するために、照明にこだわって制作しました。
このシーンは人口照明を使って、カーテンを締め切ったなかで
撮影しているため、何度でも撮り直しがききましたが、
こちらのシーンは、どうしても自然光で撮りたかったので、
朝の光が差しこむ瞬間に撮影しています。
太陽が動くので、早く作業しなければならず、
撮影するのに苦労しました。
(続く)