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絵本『どもるどだっく』高山なおみさんインタビュー<後編>


先日発売になった絵本『どもるどだっく』(高山なおみ・文 中野真典・絵)。
店頭でご覧になった方もいらっしゃると思います。
高山なおみさんのインタビュー後編です。
絵本にはさみこまれているブックレットとあわせて読んでいただければと思います。


▼前編はコチラ
高山なおみさんインタビュー:前編「子どもの孤独」




高山なおみさんインタビュー:後編「ことば」について



ーー本の帯にある「みんなと おなじようにできなくたって だいじょうぶだよ」は、
高山さんご自身が、子どものときに言われたかった言葉ですか

高山なおみさん(以下:高山) そうですね。言われてもわからなかったかもしれないけど。
でも母は、どもりの私に対してそういう姿勢だった。
私は3歳になっても、ちゃんとしゃべれなかったみたい。
「あんあん ばあばあ」みたいな、あかちゃん語だったんじゃないかな。
双子の兄のみっちゃんに比べて、言葉が遅かったので、ちょっとは心配したようだけど、
幼稚園の先生だった母はのんきな人だから、自分の仕事が忙しくて、それどころじゃなかったみたいです。


ーー言いたいことがいっぱいあるのに、言葉がするすると出てこないことに、
4歳のなみちゃんはもどかしい気持ちはありましたか

高山 どもっていることに自覚がないのね。
だから「おかあさんは、なんで私に、ゆっくりしゃべりなっていうのかな」とか、思っていた。
私は、言葉そのものを意識してしまうからしゃべれない。
それで、どもりなんだと思うの。言いたいことを伝えるために、例えば、「あ」を言って、次に「い」を言って、
その次は「か」って言わないとならないんだけれど、か行は出にくい音だからどうしよう……と考えちゃう。
心と言葉はまったく同じではないけど、みんなそのことを気にしないで当たり前のようにしゃべれるじゃないですか。
どもりの人にはそれができないんだと思うんです。自分の心の中にあるものにぴったりくる言葉を、
ひとつひとつくっつけて、これで合ってるかなって思いながらしゃべってるから。
あ、これは私の場合なんですけどね。みんなどうなんだろう……私、どもりの人から話を聞いてみたいな。



ーーいまも言葉につまることはありますか

高山 いまはほとんどないけれども。
たくさんの知らない人たちの前に出たときとか、電話がかけられないとか、道を聞けないとか、
お店で注文ができないとか。わりとつい最近までそうでした。
たぶん、こわかったんだと思う。自分のことを知らない人に会うと、
四面楚歌になっちゃう。みんな、私のしゃべり方をへんだと思っているんじゃないか、とか。


ーーどもったときのまわりの人たちの反応が、さらにどもらせる?

高山 そうかもしれないですね。そうすると、萎縮して身体がかたくなっちゃう。
小学校では、先生にさされて「本読み」するのがいちばん苦手だった。
私が読むと、くすくす笑われたり、みんなそわそわしたりする。
東京・吉祥寺のレストラン・クウクウでシェフをしていたとき(1990年〜2003年)、
パーティなんかで料理の説明をするために、大勢のお客さんの前に出ることがたびたびあったの。
私、どもらないようにしようとすると、言葉がつまって声が出てこなくなるんです。
思っていることをちっとも伝えられない。
あるとき、お客さんの中に、大好きな絵本作家の木葉井悦子さんがいらしたときがあって、
木葉井さんが、私が声ふるわせて、つっかえつっかえ話すのを聞いていたんですね。
あとから、マスターを通じて知ったんだけど、
「格好よかったです、高山さん。ますます好きになりました」って、ほめられたの。
それを聞いて、「あ、このままでいいんだ」(笑)って思った。
だから、どもりであることで卑屈になる必要はないし、どもりはマイナスじゃないです。
そういうこと、この絵本をつくりながら思い出してました。


ーーそれはどういうことでしょう?

高山 身体の中に、言いたいことが人一倍溢れているんです。私はそれがどもりだと思う。
私はいつも、毎日の小さな変化をちゃんと見て、聞いて、生きていきたい。
そういうことを感じながら、できるだけそのまま正確に人に伝えようとすると、
隙間があいたり、同じ言葉を何度も重ねたり、変なリズムでしゃべったり、
急に声が大きくなったり、沈黙したりする。だから私、いまだにどもりなんです。
昨日と今日が違わないと思ったほうが、会社に行きやすいのは分かるし、
私もそんなふうにして、暮らしていた頃もありますけども。
本の帯に「ひりひりした歓び」とあるけども、
子どもの頃はみんな、一瞬一瞬の全てが新しかったはずですよね。


ーー言葉と一体になるというのは?

高山 わあ、むずかしいですね。身体を開いて、うそをつかないということかなあ。
あと、子どもの頃、母がひな祭りの歌を歌っているときに、
おかあさんの背中に耳をつけて聞いていると、声が直に身体に入ってくる。
おかあさんとひとつになる感じ。たとえば、そういう感触のことかしら。
関係ないけど、好きな人ができると、そういうことってしませんか? 結婚したてのころとか(笑)。
「食べる」ことも、そんなことのような気がする。身体の中に入れるから。
だから、うんこも味見したくなる(笑)。
小学校に入ってからだけど、1回だけ試したことがあるの。
あるときクラスで男子たちが、「おめえ、うんこって食べたことあるのかよ」
「ねえのかよお」「なんで食べねえだよ」って話してるのが遠くから聞こえてきて、
食べてもいいんだあって思って、一人でこっそりやってみた。
マッチ棒とかでチョンチョンとやって、舐めてみたんだと思う。そしたらとんでもない味だった(笑)。
苦い、かぁぁぁっみたいな(笑)。大丈夫ですかね、この絵本。
お母さんが、「うんこなんか味見したらだめだから、
読んじゃだめだよ、こんな本」ってならないかしら。それだけが心配(笑)。



ーー子どもたちに、大人たちに向けて一言お願いします

高山 子どもたちがこの絵本を読んだときに、何を感じるんだろう。
パンツの女の子が出てくるから、ちょっとエッチな感じがして、こっそり見てくれたり、
声が爆発してるこの絵を見て、「ぼくのほうが上手に描けるよ」とか思ってくれたらうれしいな。
みんなと同じようにできない子には、「そのままでぜーんぜん大丈夫だよ」って言いたいし、
大人には、「どうだった? 気持ち悪かった? どんな感じがした?」って聞いてみたい。
その人の子どもの頃の話を聞いてみたいですね。
私はこうだったけど、あなたはどんなふうでした?って。とりつくろうことなしにね。


おわり


(聞き手/編集部 佐川祥子)



昨日7/5(火)から、絵本『どもるどだっく』の原画展がはじまっています。
高山さん、中野さんのトークイベントなども開催予定ですので、
この機会をぜひお見逃しなく。


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