ブロンズ新社公式ブログ

絵本やイベント情報についてご紹介します。

絵本『どもるどだっく』高山なおみさんインタビュー<前編>

6/17(金)発売予定の絵本『どもるどだっく』(高山なおみ・文 中野真典・絵)。
本日、見本ができあがってきました!

絵本には、なぜこの作品ができたのかについて、
高山さんに伺ったお話がブックレットとしてはさみこまれています。


このスタッフブログでも、前後編にわたって、インタビューを連載します。
ぜひ、絵本とあわせて読んでいただければと思います。


ーーー


かぜがふいて このはが ゆれると
おおきい わたしが ゆれる。
ちいさい わたしも ゆれる。


ちいさいころ、わたしは 
どもるどだっく とよばれていました。


わたし えも じも
おねえちゃん みたいに 
じょうずに かけないよ 
うまく しゃべれない


4歳のなみちゃんは、なんでもなめて、なんでもさわって 
からだじゅうでたしかめる野性あふれる女の子。
なみちゃんが出会っていく世界がひろがりますーー。




高山なおみさんインタビュー:前編「子どもの孤独」
   

ーーこの絵本は、高山さんの子ども時代の実体験ですか
高山なおみさん(以下:高山) 4歳のころの私の話です。
どもりじゃなくても、他の子と同じようにできないということは、誰にでもおこりますよね。
みんなと同じようにしたくない気持ちがあるのに、がまんして合わせたり、嘘をつかなきゃならないとか。


ーー子どものときはどんなふうに遊んでいましたか
高山 私は4人きょうだいだったのですが、一番上のおにいちゃんとは8歳離れていたから、当時はもう中学生で大人みたい。
2歳上のおねえちゃんと、ふたごの兄のみっちゃんと私の3人がチームだった。おねえちゃんがリーダーで、私がだめだめで。
みっちゃんは、人に呼ばれると、にこにこしてすぐに走ってくるような子で可愛かったんだけど、
私は、言うこときかなくて、手がつけられなかったって。心当たりあります(笑)。
おねえちゃんは、つりスカートでなくても大丈夫で、鼻くそもついてないし、いつもきりっとピンで髪をとめてて、
「私は○○だと思います」ってちゃんと最後までしゃべれたから、憧れでもあり、私にははっきりと劣等感がありました。
このころは、母や姉に怒られることが多かったですね。
「鼻くそついてるよ」「食べちゃだめだよ」「猫とキスしちゃだめだよ」とか。
自分がいいと思っていることに対して、よくないって言われることへの、
いじけた気持ちやうしろめたさもあった。絵本の中で、猫の口に舌を入れるシーンがありますが、
こんなとこ見られたら、おねえちゃんに怒られますよ。だから、縁の下の近くで隠れてやってるんだもん(笑)。
こういうことしてるから、お腹に虫がいるし(笑)。でも、そんなことぜんぜん平気だった。
それよりも、猫の口の中は、なんていい匂いなんだろうって思ってた。



ーー「あめあめあめあめ」のシーンで、泣いているのは、どんな感情だったのでしょう
高山 雨が降ると、まわりの自然と、近くなりますね。葉っぱが匂いたって、色が深くなる。
地面も葉っぱも、ぜんぶ色が深くなる。この絵のシーンは、やっぱり、ひとりぼっちの気持ちなんじゃないかな。
傘をさすと、傘の下が、自分だけの空間になって、音もこもる。
世界が「私」と「雨」というふうになれるんですね。いまでも、この感じです。
でも実は、それは中野真典さんの絵を見て気がついたんです。左目だけ泣いている絵だったから。



ーーこの絵本は、自然と一体となる子どもの生命力を感じさせると同時に、どこかさびしさも漂っていませんか。
高山 幸福感と孤独感は、背中合わせみたい。私は小さいころ、夕方になるとすごく泣く子だったらしい。
「あんた、畳の上で、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになって、手がつけられなかった」って、姉が。 
いまでもそうなんですけど、夕方になると心細くなる。
夕日が沈む直前って、強烈に光るときがありますよね。
それを見ると、死ぬ前の感じを思うんですね。
小さいながらに、いつか、なにもかもなくなるって感じていたんじゃないかな。
夕方から夜になり、真っ暗になっていくとき、「あ、今日が終わっちゃうんだ」っていう感じ。
なんの脈絡もなく、「おかあさん、死んじゃうのかな」とか。
変わらないものなんてない、ということが怖くてせつない。
それが孤独なんじゃないかと思うんですね。みんなひとりぼっちで。
一方で、夕方には、死ぬことへの恍惚感もある。
子どもにとって、死ぬことって、自分が元いたところに還っていくことのように思うんですね。
お母さんのお腹の中とか、もっと太古の昔のところへ。


ーー匂いの記憶にはどんなものがありましたか。
高山 ひいばあちゃんの部屋で、こっそりひいばあちゃんが梅酒をくれたことがあったの。
甘くて、すっごく美味しくて。お酒ですよ(笑)。
そのときのひいばあちゃんの部屋って、年よりの匂い、湿った匂い、
なんか死の匂いがするように感じた。あ、死ぬんだなって。
私ももう、若くないけれど、年とって、朽ちて滅びていくのと、
あかちゃんが生まれて、新しく更新していくことが、一緒くたにある。
そういう自然の摂理が、せつないのかな。
この世は、そういう仕組みになっている。必ず終わりがくる。人は死んじゃう。
新しいものがくるっていうことは、死があるってことだとか。
そういう気配、大人も子どもも、みんなうすうす感じている。
だから、夕方、音楽が聞こえてきたりすると、「もう、帰んなきゃ」となって、条件反射のようにせつなくなるのね。    


(聞き手/編集部 佐川祥子)


後編に続きます。



★絵本『どもるどだっく』イベント情報はコチラ → CLICK!!