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もっと知りたい ヨシタケシンスケさん<3>

今週は、ついに『りんごかもしれない』の見本があがってきました。
ヨシタケさん、ようやく家族にその絵本の全貌を明かすことになります……
インタビューでも、ヨシタケさんのディープな部分に迫りましたよ。


* * *


――ご家族には、本(色校正)を見せたりしましたか?


ヨシタケ いえ、まだです。出来上がったものを、バーンと見せたいので、ひみつにしてて。
つくっていることは言っているのですが、情報をちょっとずつ小出しにしています。
「りんごがでてくるらしいよ?」みたいに。


――ええっ!? まだそんな段階なんですか?笑。


ヨシタケ だんだん、どこで言えばいいんだろうってわからなくなってきて。笑。
ぼく、すごく気が弱いので、「つまんない」とか言われたら心が折れそうなので。


――しかも家族から。笑。


ヨシタケ そうなんですよね。出来上がるまでは、極力いろんな人の意見を聞かないようにしているんです。
人からなにか言われると「そうかもな〜」って思っちゃうんですよね。
人一倍流されやすい性格なので、流されないような環境づくりとして。笑。


     


――さっき、打ち合わせ中に、「叩かれて伸びるタイプだ」っておっしゃってましたけど、本当ですか?笑。
ご自分を、客観的にどう分析されてらっしゃいますか?


ヨシタケ ぼくの考え方は、アーティストというよりデザイナーに近いと思っているんですよね。
自分の中に表現したいものがあって、「ぼくを見てくれー!」っていうよりは、
職人さんのように、言われたことはきっちりやる。そして、ある程度のクオリティはちゃんと出すよ、
という立ち位置が好きなんですね。



今でもそうですけど、社会に対する怒りとか全くないんですよね。
だから、ぼくは作品をつくっちゃいけないと思っていたんです。作家になれる人間ではないなって。
さいころから工作が好きだったので、なんか美術系の学校に行きたいなとは思っていても、
そもそも自分には表現欲がないから無理だろうと思っていました。
「俺ってこうなんだぜ!」って熱い思いをもっている人に対して、コンプレックスを感じていました。
「そういう人になってみたいし、なったらなったで大変だし、
なったほうが逆に楽なところもあるだろうし、だけど、ぼくそうじゃないし……」、
みたいな葛藤や負け惜しみはずっと抱いていました。



――そういう自分に気づいたっていうのは、高校生くらいですか?


ヨシタケ わりと物ごころついた頃からですね。
昔から、ネガティブな考え方をする子どもだったんですけど、反抗期がなかったんですよ、ぼく。


――えー、それは逆に危ないですよね。笑。


ヨシタケ そうなんですよ!!
だから、自分で「危ないな」っていうのは思春期の頃からずっとあって。
ある凶悪な事件が起きた時に、
「あれは、自分かもしれない。あんなふうになるかもしれない」って
すごく怖くなったのを覚えてます。
親にすら反抗できなかった人間は、どっかで壊れるんじゃないかって
どこかで恐怖を感じていたし、逆に期待もしていましたね。


さいころから親の言うことをすごくきいていて、
反抗期もなくて、ほめられるためだけに生きてたって感じで。
その、ほめられたいっていう気もちが、どこかで「怒られなければいい」っていうのと
だんだん間違いはじめて、「どうすれば怒られないか」っていうことだけで生きていました。
でも、実際に大学に入って、自分でつくったものを人に見せたら、
すごく喜んでくれて、その反応を見て「あ、やってもいいんだ! 怒られないんだ!」って、
すごく救われましたね。


たとえばですけど、(インタビュー・その1に出てきた)ヤノベケンジさんて、
趣味丸出しの造形をつくるんですよね。「ロボットが好きなんだろうなー」とか、
鳥山明さんが好きなんだろうなー」っていうのがすぐにわかる。
そういう作品を見て、「あ、これでいいんだ」って、思ったんですよ。
自分の好きなものをそのまんまつくって、
それを褒めてもいいんだっていうのはすごく新鮮だったんですよね。


     


――共感してくれることに喜びを見い出せたってことですね。


ヨシタケ そうですね。
だから、高校生のころは、不安で不安でしょうがなかったですね。
大学に入って、好きなことを好きって言っていいんだって思えたら、すごく楽になりましたね。


――それまでは、自意識が過剰だったところもあるんですか?


ヨシタケ そうなんですよ。おっきすぎる自意識と、自分がどう向き合うか。どうやって負け惜しむか。
「ひとりでもさみしくないもん!」みたいな感情を、自分のなかでどう整合性をつけていくかを、
ひとりでずっと考えていましたね。中学高校は。
だから大学では、「ネガティブなことを、ニコニコ人にしゃべってもいいんだ」
というふうにポジティブに思えた。ネガティブな性格は変わっていないんですけど、
「このことが他人にばれたらエライことだ!」と思っていた部分が、
割とどうでもよくなったっていうのは、自分にとってすごく大きいですね。


* * *


いろいろな感情や思考のなかで、ヨシタケワールドが構築されていることを感じました。
インタビュー中に、「絵を描くことは精神衛生上必要なこと」というフレーズが出てきました。
ドキっとする表現ですが、まさにヨシタケさんの描く作品のことなんだな、と思います。
次回の更新でくわしくお伝えしますね。


(広報・まつや)