ブロンズ新社公式ブログ

絵本やイベント情報についてご紹介します。

岡田よしたかさんインタビュー「子どもと、絵本と、ぼくと」

うどんのうーやん』『ちくわのわーさん』などユーモア絵本の作者・岡田よしたかさんは、絵本作家としてデビューなさる前、保育所にお勤めされ、最終的に園を閉じるまでお仕事をされたそうです。

さくらもちのさくらこさん』発売記念イベントが開催された枚方蔦屋書店さん、今井書店出雲店さんで、保育所でのエピソードや子育てについてお話を伺いました。

 

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Q 岡田さんは、芸大を卒業なさったあと、31才から11年間、保育所で保育士をなさっていて、そこで絵本と出会われたと伺っています。

 

A そうなんです。それまで絵本をじっくり読んだことはなかったんですけど、保育所でたくさん絵本を読んで、絵本ておもろいなあ、思いました。

僕流のアレンジで、子どもたちにもよく読みきかせをしましたけど、田島征彦さんの『じごくのそうべえ』や片山健さんの『コッコさん』シリーズは特に大好きでした。

そのときは、自分に描けるとはまったく思っていませんでした。

 

 

Q そんな岡田さんが絵本作家になられて、ブロンズ新社から6冊目の絵本『さくらもちのさくらこさん』が発売されました。

さくらこさん、なかなかややこしい性格ですが、岡田さんがいらした保育所にも、さくらこさんに似た一筋縄ではいかないお子さんはいましたか?

 

A 機嫌のわるい子や、途中から入ってきて馴染めない子もいました。絶対笑わないキエちゃんいうおんなの子がおったんですけど、絶対笑らかしたろ思て、マンツーマンでおもろいことし続けたんです。だんだん口の端がひくひくってなって、こらえきれずに吹き出したときは快感でしたわ。

 

 

Q 子どもってすごいと思われたことはありますか?

 

A 僕が働いていたのは無認可の保育所だったんですけど、韓国から在日の人を頼って出稼ぎに来た人たちの子どもを預かることもあって、その子らは日本語ができないんです。

そしたら、年長のリーダー格のナオちゃんいう子が、「チヘは日本語わからへんから、わからなくてもできるルールで遊ぼ!」って提案したんですわ。たいしたもんやと思いましたね。

 

 

Q 今でも思い出されるシーンを教えてください。

 

A 僕とこの保育所では、子どもらの誕生日に、その子の写真を何枚か貼った誕生日カードを渡すんです。

ある夕方遅く、他の子らはみんなお迎えがきて帰ってしもて、ちょうど誕生日のへミンちゃんいう子と二人きりやったんです。

カードを仕上げて、遊んでたへミンちゃんに渡したら、普段さわがしい子やのに、腹ばいになったまま、10分くらい、じぃーとそのカードを見続けとるんです。

それから台所で給湯器を直しに来たおじちゃんにも「これ、へミン」いうて見せにいくんですわ。

ほんまに地味なちっちゃなもんやのに、嬉しかったんやろな、思います。えらいもん見てしもたな、と思いました。

 

 

Q 岡田さんがご自分のお子さんと接するとき、奥様と役割分担はありますか?

 

A 学校のことは甘えて奥さんに任せてしまうことが多いですが、ちっこいときは、オムツを替えたりしてました。保育所でやってたから手慣れたもんやと思てたけど、ブランクがあったから、奥さんに「ほんまにやってたん?」言われましたけど。

 

 

Q 子どもにガツンと言わねばならないのはどんなときでしょう?

 

A 難しいですね。逆効果のこともあるし、あんまり、よう言いません。

上の子が発達障害で、発達障害児の親のためのペアレントレーニングを受けたとき、カウンセラーの人から教わったんですが、常識的に考えて、子どもが悪いことをしたり、誰かに迷惑をかけたとき、頭ごなしに怒らず、その子の気持ちをまず受け入れる。

どうしてそうしたのかを、問い詰めず話しやすいように聞く。

あ、そうか、そう思ったからそうしたのか、と認めてあげて、そこから話を始める。

こういうことをすると、こうなる。だから今度はこうしてみようと順番をたどったり、言われた方はどんな気持ちになるかを一緒に考えたり。

でもそれは、障害に関係なく、すべての子どもたちに対して当てはまる接し方だと思います。てなこと言うてますけど、日常でいつも実践できているとは、よう言いません。

 

 

Q 今なら言える、「あんときは、おとうちゃんが悪かった……」という親としての苦い思い出はありますか?

 

A いっぱいあります。子どもがふたりになってからは手一杯になって、いろいろ怒ったりしたんですが、今になってみると、なんで怒ったか全然覚えてない。

しょうもないことで怒ったんやなと思うし、感情的になったらあかんと思うんですが、今でもついつい、ありますね。

でも、子どもが肉体的にも精神的にも大きくなって、親に充分対抗できるくらい大人になったら、感情的に怒ることがあってもいいかもと思います。ちゃんと親子ゲンカができるなら。

小さい頃は、親が一方的に押さえつけるような形になってしまうからよくないけど。

 

 

Q 子どもさんに対して「親を超えている!」と思われる瞬間はありますか?

 

A 虫歯がないこと(笑)。

 

 

Q 岡田さんのお子さんは、お兄ちゃんが高3、弟さんが中3です。

ここはまだ勝っていると思われるところは、どんなところでしょう?

 

A 下の子については、ロック音楽の知識に関しては勝ってます。しかしビートルズについては負けてますけど。

 

 

Q 子どもさんを育てる上で、これはしておいてよかった!と思われることを教えてください。

 

A ないです。これをしてあげた、してやったということは全然ない。

 

 

Q もしお孫さんができたら、してみたいことってありますか?

 

A そらもう、一緒に酒飲みたいですわ(笑)。

 

(インタビューまとめ 営業 奥田朋子)

工藤ノリコさんの絵本作家20周年記念、 「ノラネコぐんだん展」にいってきました!

 

 

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工藤さんの絵本は、それがどんな内容のものでも読む人への愛情が、おどろくほどギュッと詰まっています。ことに、ちいさな読者への。

 

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「ノラネコぐんだん展」での工藤ノリコさんの挨拶文

 

ペンギンきょうだい」という4冊完結のシリーズ絵本を担当している間、完成した原画を最初にいただいて一枚一枚をめくる時、じんわりじんわりと、なんともいえない感動が体に満ちていくのを毎回感じていました。

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ラフから完成原画まで途中を編集が拝見しない制作スタイルなので、ストーリーやおおまかな流れは分かっていても原画アップまでは、工藤さんのならではの細かな描き込みやキャラクターの動き、表情、ちりばめられたユーモアはわかりません。

でもそこが工藤さんの真骨頂!

ラフを拝見したとき以上の感動がかならずあり、整合性などもすべて注意深く確認されているのです。

 

完成した原画を最初の読者として、拝見するときは扉をゆっくり開いて、その世界に足を踏み込み、存分におはなしの世界を歩き回ることのできるなににも代え難いしあわせな時間でした。

 

発売後は、たくさんの読者を得て、寄せられる感想にはなんでこんなに子ども心を掴んでいるんでしょう? という驚きが綴られています。

いまも変わらず版を重ねる大切なシリーズです。

 

4冊完結でバラバラに読んでも成立し面白いですが、れっしゃふねひこうきバス……と順番に読むと実は物語はつながっていて、背景のキャラクターたち全てにひとつらなりの物語があるという驚くべき構成も工藤さんならではの緻密なお仕事です。

 

 

ノラネコぐんだんは工藤さんのもうひとつのお仕事。コミックから生まれたキャラクター。絵本とコミックはキャラクターが同一だったりとゆるくつながっていますが、読み心地というのか読み味というのか肌合いがすこし違います。

 

モエにさりげなく連載されている四コマ、もうかわいくて、憎たらしくて、ひょうひょうとしてて、くだらなくて最高なんです。(今回、この連載をノラネコ中心にまとめたコミックが展示に合わせて発売されましたよ)

 

ノラネコの絵本は、そのコミックの持ち味の良さが一番ダイレクトに感じられる作品かもしれません。

でも巻をかさねるごとに、その表情も少しずつ変化させ見事です。

 

展示も愛情いっぱい。

随所に、工藤さんの思いが溢れてます。

ところどころに展示された映像は旦那さま作。

全ての書籍とほとんどのグッズデザインをされている(!!)担当編集の森綾子さんと、三人四脚でちくちく縫ってきたタペストリーが大きく広げられたような空間でした。

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ペンギンきょうだいの原画もより抜いて飾っていただいていますよ。

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 展示は銀座松屋にて5/6まで。となりではトムとジェリー展もやっていますよ!

展示詳細はこちらから。

 

 

(編集・山縣)

 

*ノラネコぐんだん展の会場内は撮影禁止です。あらかじめご了承ください。

『あのこのたからもの』発売記念 種村有希子さんインタビュー【後半】

*前半はこちら

 

甥っ子さんの成長とともに絵本作家として育つこと

絵本をつくり始めたときは、子どもとの関わりもそれほどなかったので、自分の感覚をもっと子どもの頃に戻さないと、と思っていました。でも、ちょうど2冊目の絵本(『ようちえんのおひめさま』講談社刊)のときに甥っ子が生まれて、彼が成長するのと同時に、絵本作家として育っている気がします。

よく甥っ子と2人で遊ぶのですが、あるとき一緒にお菓子を食べていたら「(幼稚園の友だちのこと)たたいちゃった。きらいって言っちゃった」と話し始めて。甥っ子は小柄で、周りの子が可愛いと思って、頭を触られたりすることが多かったようです。それが嫌だったみたいで。

「頭さわられるのが嫌だってこと伝えたの?」と聞いたら「言ってない」と。だから「頭さわられて嫌だってことを話したら、たのしく遊べるかもよ」と話しました。

そしたら数日後に「うき(種村さんのこと)の言うとおりにはなしたら、今日はたのしくあそべたよ!」って話してくれました。甥っ子がスキップし始めたので、私も嬉しくて一緒にスキップしましたよ(笑)。

「わかるわかる」って話すと、甥っ子もうれしそうに「うきもそうだったんだ〜」と言ってくれて。共感することって、子どもにとって安心できるし、頑張れることなんだなと気づきました。

甥っ子と出会って気づいたり、描けるようになったところがたくさんあります。絵本作家になりたての頃は、もう少し客観的に子どものことを見ていたのですが、今は前より子どもの感情に近くなったなと思います。

 

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『あのこのたからもの』より

子どもが感情的になる、2人の喧嘩のシーンでは、子ども特有の言葉がばばばっと出しました。姉との喧嘩のことを思い出したりもしましたよ(笑)。

 

 

絵本で表現したいこと

昔から人の気持ちに興味がありました。気持ちって動くときがわかりますよね。

とくに子どもは、わっと泣いたと思ったら、けらけらと笑ったり。

その鮮やかな変化を描きたいなと思っています。

表現したいことは派手なことではないので、子どもの読者が興味を持つ「動き」に気持ちをのせて描くことが、子どもへ伝わる方法なのだろうなと、作りながら試している感じです。

 

 

『あのこのたからもの』の中で気に入っている場面

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姉に泣いているポーズをとってもらったりしながら、試行錯誤して描いたので、気にいっている場面です。はなちゃんもゆりこちゃんも、友だちと目が合っていないんですよね。あとは、わざと演出した泣き方をしたり。

他にも性格のちがいとか、立場のちがいなどに気をつけて子どもを描いているので、そういうところを見てほしいなと思います。

 

 

(インタビューまとめ  広報 今井)




『あのこのたからもの』発売記念 種村有希子さんインタビュー【前半】

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子どもの頃の気持ちや思い出をくすぐるような、なつかしくあたたかな物語をつむぐ種村有希子さん。最新作『あのこのたからもの』では、友だちと喧嘩してしまった主人公・はなちゃんが、お母さんのタンスの中で出会う不思議な女の子とのかかわりの中で、気持ちが変化する様子を丁寧に描きます。本作にこめられた、種村さんのお母さんや甥っ子さんとの思い出、子どもたちへの想いについて伺いました。

 

 

きっかけはお母さんのアルバム

ホームページにアップしていた、母の子どもの頃の写真や、エピソードをもとに描いた絵を見た編集者さんから「アルバムや、お母さんの宝物をゆずり受けることをモチーフに描いてみませんか?」と提案されたことがきっかけで、『あのこのたからもの』が生まれました。

母の赤い布ばりのアルバムを小さい頃によく眺めていて、初めて見たとき「お母さんも子どもだったんだ!」とびっくりしたんです。そのうち、想像がふくらんで「この子が今ここにいたら、友だちになりたいなぁ」と思うようになりました。『あのこのたからもの』のゆりこちゃんは、母の性格とか雰囲気がモデルになっています。

*はなちゃんがお母さんのタンスの中で出会う女の子

 

 

『あのこのたからもの』の中で描かれる子どもの頃の思い出

絵本のはなちゃんみたいに、母のタンスの中にはよく入っていました。悲しいからではなく、落ち着くという理由ですが(笑)。

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『あのこのたからもの』より

大きなタンスで、母が子どものときに着ていた服が大事に保管されていました。仕立て屋さんにつくってもらった1点ものが多くて。小学生から成人まで、年齢にあわせて少しずつおさがりをもらいました。

今も持っているのは、祖母が母に編んだ手袋です。ピンクと濃いピンクの縞柄で、中学生のときに母からゆずり受けて、今も使っています。祖母は編みものをする人だったのですが、色彩センスが独特で、たとえばハーフトーンと強めの色を組み合わせる感じとか、自分の絵も影響を受けているなと思います。

 

 

おばあさんから影響を受けた色づかい。種村さんにとっての「色」とは。

色が好きだからこそ、「なにかを伝えるために色がある」という感覚があって、意味を持たせないで使うことができないんです。絵本を描くときも最初に主人公の感情の流れに沿って背景の色を決めます。

わーっと感情的になったあとに、落ち着いた色はなんだろう? とか、色で大きな流れを演出したいと考えています。

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言い合いをする鮮やかなピンク色の場面から落ち着いたブルーへの展開

 

一度ある子の前で、自分のつくった絵本を読みきかせしたときに、見せ場の場面で子どもが飽きてしまったことがありました。大人は言葉や雰囲気で共感してくれますが、子どもにはもっと視覚的に強く伝える必要があるなと気づいて。そこから感情的な場面や場面そのものが展開するときは、背景の色で表現することを意識し始めました。

 

(後半へつづく)

片山令子さんのこと。 『マルマくんかえるになる』が、おしえてくれること。その3

 

 いつも心のどこかにあるのだけれど、入園、入学のこの季節になると、

桜がふわりと満開になるように、毎年必ず存在感を増して、

あたたかいもので心を満たしてくれる本、

それが、わたしにとっての『マルマくんかえるになる』です。

 

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片山令子さんのあたたかな言葉と、広瀬ひかりさんの美しい銅版画で、生きていく上で大切なことを、やさしく教えてくれる絵本。

 

この絵本をつくったきっかけは、以前こちらで書きましたので、

成長は、おそい方が、とく。『マルマくんかえるになる』がおしえてくれること。その1

成長は、おそい方が、とく。『マルマくんかえるになる』がおしえてくれること。その2

 

今年は片山令子さんのことを、すこしだけ、書こうと思います。

駆け出しの編集者だったわたしにとって、

詩人でもあり、児童文学作家でもある片山令子さんは、

背筋がのび、ひどく緊張する一方で、

心をゆるして、いろいろおはなししたくなる方でした。

 

令子さんの詩や文章は、特別な言葉を使っていないのに、

その手で掬い上げられことばは、

魔法のように独特の存在感と魅力を帯びて、

しずかに光を放ちはじめるような、

比喩ではなく、ほんとうにそんな感じがします。

 

それは、文章や詩だけではなく、

令子さんの身のまわりに存在するものでも、おんなじでした。

ブルーのインクで書かれた、誠実な感じのするやわらかな筆跡も、

きれいな靴下を、ご自身で改造したおもしろい手袋も、

繊細な花モチーフの鋳型のブローチも、

黒いリボンをつけかえた、上等の麦わら帽子も、

令子さんのまわりにあるものは、

いつも独特の存在感で必ずわたしの目をひき、

毎回褒められずにいられないくらい、特別な輝きを放っていました。

 

当時は「すてきだなあ」と、ただぼんやり憧れるだけでしたが、

中年になった今は、その理由がわかります。

令子さんのことばやものが、特別な輝きを放っていたのは、

令子さんがそれらに、特別な愛情をもち、慈しんでいたからです。

 

国立のロージナ茶房で、令子さんから手渡しでいただいた、

マルマくんの原稿もまさにそう。

B5の用紙に、ゆったりと行間をとって、

丸みのある明朝体で印字された原稿は、

令子さんが、このおはなしをいかに慈しみ、

ていねいに仕上げたかが、ひとめでわかる佇まいでした。

オフホワイトの用紙が、誇張じゃなく、淡く光を放っているよう。

特別なもの、とすぐにわかる存在感。

この原稿は、いまでもわたしの大切なたからものです。

 

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永久保存版のたからもの原稿。


作家さんを前にして手渡された原稿を読むという

一人前の編集者のような大役に呑まれそうになりながら、

緊張して文字を追いはじめました。

ほどなく、自分のなかで感情が大きくふくらんで、

うれしい気持ちと、泣きたくなるような気持ちが制御できなくなるような、

からだが波打つような感覚につつまれました。

『マルマくんかえるになる』の原稿は、ほんとうに、すばらしかった。

 

令子さんの体温が宿った言葉で紡ぎあげられた世界は、

2月の早生まれで、なにもかもが人よりおそく、

落ちこぼれだったかつてのわたしを、

やさしくつつんでくれるようなおはなしでした。

「成長は、おそいほうが、とく」というテーマを、

こんなにすばらしい物語で表現してくれるなんて。

うわずった声と拙い言葉で、感想をつたえると、

令子さんは、にっこり笑って「よかった」と言ってくれました。

 

この日のことを、わたしは本当によくおぼえています。

編集者としてこれから仕事をしていく上で、

この日の出来事が、じぶんにとってとても大事な意味をもつことを直感し、

令子さんと別れるとすぐ、ひとり国立の織物屋さんに直行しました。

そして、銀行でお金をおろし、当時のわたしにしては

なかなか思いきった値段のラグを、即断で購入しました。

毎日目にする、値段のはったものを買えば、

それを見るたびに、令子さんから原稿をいただいて

感激したこの日のことを、覚えていられると思ったのです。

そうして、かばんにはマルマくんの原稿、両腕には大きなラグを抱え、

深い満足感とともに、中央線にのって帰りました。

 

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庭やお花のはなしもしました。ラジオ大学の古典講座や、アクセサリーのおはなしも。

 

国立のロージナ茶房で、片山令子さんと、

いろいろなおはなしをする時間は、

わたしにとって、ごほうびのような時間でした。

なかでもとりわけ印象にのこっているのは、

 

「わたしはね、なにか嫌なことがあったら、

なにかひとつ、いいことをするの。なかなか会えないお友達に

ちいさなお菓子を贈るとか、どんなことでもいいの。

でも、かならず、そうするの」と、令子さんがはなしてくれたこと。

 

これをきいて、「ああ、こういう方だから、こどもを慈しみ、

つつみこむような、あたたかいおはなしを書けるんだな」と思ったのを、

よくおぼえています。

 

おちこぼれのマルマくんたちを、

あたたかく包みこむがませんせいの姿は、

そのまま、当時若かったわたしが、緊張しながらも、

心をひらいてあれこれ話しかけたくなった、

成熟した寛容な心をもつ、令子さんの姿そのものにも感じます。

 

いただいたテキストをページで割って、

絵のイメージを編集者が割り付けしたものを確認しながら、

「ああ、よく読んでくれている」と言ってもらったときの、

恥ずかしいような、誇らしいような気持ちは、

鮮度を失わず、ずっとわたしの心の中にあります。

 

そのときのページに書かれていたことばは、

その後、わたしが困難に立ち向かうたびに幾度となく唱え、

いまではすっかり暗唱してしまい、大切なお守りのことばとなっています。

 

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お守りの一節になった、がませんせいのことば。

 

特別な思いのつまった絵本、『マルマくんかえるになる』は、

2013年の刊行以来、ゆっくり、ゆっくり、着実に版を重ねつづけています。

松戸のとある書店さんでは、時間をかけて、

通算80冊ものマルマくんを、売り上げてくださいました。

 

まあたらしい場所で、じょうずにできないとき、

ひとりだけ、おくれてしまったとき、

こどものすがたに、しんぱいになってしまったとき、

『マルマくんかえるになる』を、読んでいただけたら、

うれしいな、と思います。

 

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のーんびり。気持ちのいい場所で絵本をひらいて。あんまり焦る必要はないと思う。

 

世の中には、今年も、おちこおぼれのちびちゃんたちをみつけて、

うれしくてしかたのないがませんせいや

令子さんのようなすてきなおとなが、たくさんいるんだよっていうことを、

渦中のみんなに知ってもらえたらいいなあ、と思います。

 

成長は、おそいほうが、とく。

これは、ほんとうに、ほんと、なんですよ。

 

(編集部・沖本)

第7回ブロンズ新社書店大賞・製本所見学レポート

2日目は絵本作りの現場、大村製本さんへ、製本所見学へ行きました。

受賞者のみなさん、あべ弘士さん、石井睦美さんと、貸切バスで向かうのは、なんだか大人の遠足のようでワクワクします。

 

まずは、手製本のワークショップを体験させていただきました。

紙の「目」を確認しながら本文となる紙を折っていき、

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真ん中をミシンで縫っていきます。

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表紙はくじ引きの順番で選ばせていただくことに。

大村製本さんが特別にご用意いただいた和紙の表紙。1枚1枚全て表情が違っていて、どれも素敵です。

くじで1番を引いたのはあべ弘士さん!

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続いては、表紙と本文を貼り合わせる作業に。

見返しののり付けは、表紙を選ぶくじが最後だった方に体験していただきたいという大村製本さんの粋なお心遣いで、

絵本と童話 本の家 続木美和子さん、未来屋書店イオンモール岡崎店 長谷川さん、ブックスノア 今さんの3名に代表して体験していただきました。

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手製本のワークショップを体験した後は、いよいよ製本所の見学です。

製本所内には、普段なかなか見ることがないような機械がたくさん。みなさんとても興味津々で、真剣にお話を聞かれていました。

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『あかちゃん』『おでこはめえほん』など、ちょっと珍しい形の絵本も大村製本さんで作っていただいています。型抜き絵本の型も見せていただきました。

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型抜き絵本の製本の秘密はぜひこちらの動画をご覧ください。

 

今年10周年を迎える『しごとば』もちょうど製本していただいているところでした!

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見学の最後は全員で記念撮影です。

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自分で手製本した本をおみやげにいただきます。この本の中はまだ真っ白。何に使おうか、もったいなくて使えないような…と話しながらブロンズ新社へと戻りました。

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絵本は特に、判型や本文の仕掛けなども様々…商品にあわせて機械の調整を行ったり、人の手で貼り合わせる作業があったり、人と機械の素晴らしい技術力が合わさって本ができていることを改めて実感しました。

大村製本のみなさま、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!

 

3回に渡ってお届けしてきた、第7回ブロンズ新社書店大賞レポートもこちらで最後です。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

(営業部・橋本)

 

 

 

 

 

第7回ブロンズ新社書店大賞 祝賀パーティーレポート

授賞式のあとは場所を移し、祝賀パーティーを行いました。

あべ弘士さんに乾杯のご発声を頂戴し、楽しいパーティーの始まりです!

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会場となったeatrip様は、ブロンズ新社から徒歩1分のところにあるレストランです。

 

原宿であることを忘れてしまうような温かく心安らぐ空間と、

食材にもこだわって作られている色鮮やかで美味しいお料理に、

授賞式では緊張したご様子だったみなさまにも笑顔がこぼれます。

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普段なかなかお会いする機会のない著者のみなさまや、

他の書店の方ともたくさんお話いただき、

みなさまとても楽しそうに過ごされていました。

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著者のみなさまにお一人ずつご挨拶いただいたあとは、祝賀パーティーの恒例となりましたゲームの時間です。

 

今回は新しいゲームが登場しました。

その名も、「おでこはめっこ」!

 

鈴木のりたけさんの『おでこはめえほん① けっこんしき』を一人1冊ずつ持っていただき、掛け声に合わせておでこはめ!

 

のりたけさんと同じページをはめていた方が勝ち残り、最後まで残った3名の方には豪華賞品をプレゼントいたします。

 

今回のために結成された「おでこはめ楽団」の演奏に合わせて、新ゲーム「おでこはめっこ」スタート!

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さぁみなさん、用意はいいですかー?

 

せーのっ!

 

~ 書店さーん 書店さーん

おでこはめっこしーましょ

    一緒なーら 勝ーちよ あっぷっぷ♪ ~

  (※にらめっこの歌のメロディーで)

 

 

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一人勝ち抜けの方がいたり、逆にページが同じでなかなか決まらなかったりと、熱戦が繰り広げられとても盛り上がりました。

 

そんな熾烈な戦いを勝ち抜いた三名の方には、お越し頂いた著者の方々のサインの寄せ書きをプレゼント!

 

おめでとうございます!

ぜひ飾ってくださいねー。

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楽しい時間はあっという間。書店大賞の2日目は大盛況のうちに終了しました。

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次回は2日目の製本所見学の様子をお伝えいたします。

どうぞお楽しみに!

 

(営業部 大村)